ぽつん、と気づいたら私は一人でそこにいた。
明るいのか、暗いのか。
うるさいのか、静かなのか。
どっちとも言えるような、どっちとも違うような。
よく、わからない場所。
立っているのか、座っているのか。
浮いているのか、沈んでいるのか。
動いているのか、止まっているのか。
自分の体のはずなのに、寝ぼけてるときよりも五感が鈍い。
えーっと……これってたぶん。
夢、だよね?
ぼんやりとした頭で、ぼんやりと考える。
思考はうまくまとまってくれなくて、思いつくはしから消えていく。
ぽう……と、その場に光が生まれた。
何もないのか何かあるのかすらわからなかった空間に、前ふりもなくいきなり。
大きくて強い光なのに、まぶしさは感じるのに、直視できる。
うっかり太陽を見ちゃったときみたいに目が痛くなることも、残像が見えることもない。
夢だから、なんでもありなんでしょう。
――はじめまして、よろしく。こっちです!
……光がしゃべった!
声が聞こえたというよりも、直接頭に響いたというか。
内容が、頭に流れこんできたといったほうが正しいかもしれない。
――元はこっちだったあっちです。
逆の方向から声がした。
いや、正確には声じゃないんだけど……うーん、説明が面倒です。
とにかく、しゃべってるような気がする方向を見てみると、大きい光の三分の一くらいの光が灯っていた。
大きい光の存在感のせいで、気づかなかった。
こっちとかあっちとか、何のこと?
夢だからって筋が通ってなかったらつっこみたくなるのです。
あ、ちょっと頭が回るようになってきたみたい。
――かたむいてるほうが、こっちになるんだ。
大きい光は語る。
子どもみたいに無邪気な調子で。
――そう。元々、あっち……今のこっちはなかった。
小さい光も語る。
子どもみたいなのに落ち着いた調子で。
――きみがかたむいてよかった!
――うん、よかった。
大きい光も小さい光も、喜んでいるようです。
……どういうことなのかまったくもってわからないんですが!
だいたい、あっちとかこっちとかって指示代名詞は、話し手からの距離によって変わるもののはず。
こっちはまだしも、自分を指してあっちって言うのはおかしいんじゃなかろうか。
――あっちでもこっちでもいいんだ。本質は変わらない。
小さい光がまた語り出す。
たしかに同じ光みたいだけど、大きさも強さも全然違うのに。
もしかしたら、こっちとかあっちって言ってるんだし、大きい小さいじゃなくて近い遠い、なのかな。
だとしてもやっぱり意味不明なことに変わりはない。
夢だから深く考えても無駄だって? 気になっちゃうものはしょうがないのです。
――でもね、つりあっちゃダメだよ! 固定されちゃうよ!
大きい光は焦ったように言う。
――かたよったままでいてね。
小さい光は思いつめたように言う。
二つの光が断続的に明滅しだす。
声にならない言葉と一緒に、危機感が、流れこんでくる。
つりあっちゃダメ、かたよったままがいいなんて、謎すぎる。
普通だったら逆なんじゃないかなぁ。
何のことだかわからないから、どうとも言えないんだけど。
まあ、二つの光がとっても心配そうにしているから。
一応気をつけようかな、と思った。
――絶対だよ!
――お願いね。
二つの光は念押ししてくる。
うんうん、わかったから心配しなくていいよ。
これは夢だけど、予知夢だとかそういうの、全然まったく信じてないってわけじゃない。
無意識が見せる警告夢っていうのもあるわけだしね。
私がうなずいたことで気が抜けたみたいに、二つの光が急に弱まってきた。
それでも光はまだかすかに明滅して、何かを伝えようとしてくる。
――きみには……えがひつよ……。
――……まえを……てもら……。
とぎれとぎれに流れこんでくる内容は言葉として捉えられない。
視界がぶれて、どこかに引っ張られていく感覚。
あ、目が覚めるんだなって、理解する。
別に冷静なわけじゃないんです。
夢だって自覚しているとこんなものなんです。
引っ張られる力は強くなって、現実が急速に近づいているのがわかる。
もう、二つの光は見えない。頭に言葉は流れてこない。
で、結局どういう話だったんだろう?