20.夢を見ているようです

 ぽつん、と気づいたら私は一人でそこにいた。

 明るいのか、暗いのか。
 うるさいのか、静かなのか。
 どっちとも言えるような、どっちとも違うような。
 よく、わからない場所。

 立っているのか、座っているのか。
 浮いているのか、沈んでいるのか。
 動いているのか、止まっているのか。
 自分の体のはずなのに、寝ぼけてるときよりも五感が鈍い。

 えーっと……これってたぶん。

 夢、だよね?

 ぼんやりとした頭で、ぼんやりと考える。
 思考はうまくまとまってくれなくて、思いつくはしから消えていく。



 ぽう……と、その場に光が生まれた。

 何もないのか何かあるのかすらわからなかった空間に、前ふりもなくいきなり。
 大きくて強い光なのに、まぶしさは感じるのに、直視できる。
 うっかり太陽を見ちゃったときみたいに目が痛くなることも、残像が見えることもない。
 夢だから、なんでもありなんでしょう。

――はじめまして、よろしく。こっちです!

 ……光がしゃべった!
 声が聞こえたというよりも、直接頭に響いたというか。
 内容が、頭に流れこんできたといったほうが正しいかもしれない。

――元はこっちだったあっちです。

 逆の方向から声がした。
 いや、正確には声じゃないんだけど……うーん、説明が面倒です。
 とにかく、しゃべってるような気がする方向を見てみると、大きい光の三分の一くらいの光が灯っていた。
 大きい光の存在感のせいで、気づかなかった。

 こっちとかあっちとか、何のこと?
 夢だからって筋が通ってなかったらつっこみたくなるのです。
 あ、ちょっと頭が回るようになってきたみたい。

――かたむいてるほうが、こっちになるんだ。

 大きい光は語る。
 子どもみたいに無邪気な調子で。

――そう。元々、あっち……今のこっちはなかった。

 小さい光も語る。
 子どもみたいなのに落ち着いた調子で。

――きみがかたむいてよかった!
――うん、よかった。

 大きい光も小さい光も、喜んでいるようです。
 ……どういうことなのかまったくもってわからないんですが!
 だいたい、あっちとかこっちとかって指示代名詞は、話し手からの距離によって変わるもののはず。
 こっちはまだしも、自分を指してあっちって言うのはおかしいんじゃなかろうか。

――あっちでもこっちでもいいんだ。本質は変わらない。

 小さい光がまた語り出す。
 たしかに同じ光みたいだけど、大きさも強さも全然違うのに。
 もしかしたら、こっちとかあっちって言ってるんだし、大きい小さいじゃなくて近い遠い、なのかな。
 だとしてもやっぱり意味不明なことに変わりはない。
 夢だから深く考えても無駄だって? 気になっちゃうものはしょうがないのです。

――でもね、つりあっちゃダメだよ! 固定されちゃうよ!

 大きい光は焦ったように言う。

――かたよったままでいてね。

 小さい光は思いつめたように言う。

 二つの光が断続的に明滅しだす。
 声にならない言葉と一緒に、危機感が、流れこんでくる。

 つりあっちゃダメ、かたよったままがいいなんて、謎すぎる。
 普通だったら逆なんじゃないかなぁ。
 何のことだかわからないから、どうとも言えないんだけど。

 まあ、二つの光がとっても心配そうにしているから。
 一応気をつけようかな、と思った。

――絶対だよ!
――お願いね。

 二つの光は念押ししてくる。
 うんうん、わかったから心配しなくていいよ。
 これは夢だけど、予知夢だとかそういうの、全然まったく信じてないってわけじゃない。
 無意識が見せる警告夢っていうのもあるわけだしね。

 私がうなずいたことで気が抜けたみたいに、二つの光が急に弱まってきた。
 それでも光はまだかすかに明滅して、何かを伝えようとしてくる。

――きみには……えがひつよ……。
――……まえを……てもら……。

 とぎれとぎれに流れこんでくる内容は言葉として捉えられない。
 視界がぶれて、どこかに引っ張られていく感覚。

 あ、目が覚めるんだなって、理解する。
 別に冷静なわけじゃないんです。
 夢だって自覚しているとこんなものなんです。

 引っ張られる力は強くなって、現実が急速に近づいているのがわかる。
 もう、二つの光は見えない。頭に言葉は流れてこない。




 で、結局どういう話だったんだろう?



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