あなたは砦へと続く道を歩いていきます。
石造りの堅牢な砦は、飾り気はありませんがよく見ればきちんとしたお城でした。
つい先日、このお城で舞踏会が開かれたのです。
そこでヒーローとヒロインは出会い、魔法が解ける前に別れ、後日再会……するはずでした。
ですが、どうやらヒーローはいまだにヒロインを見つけられていないようです。
いったいなぜでしょうか。キーアイテムであるガラスの靴を、うっかり落とし忘れてしまったのだとすれば、大変なことです。
あなたはまず、状況を把握する必要がありました。
しばらく姿を隠しながら待っていると、お目当ての人物が城から出てきました。
むっつりと不機嫌顔の王子――と言っていいのか微妙な年ですが、設定上仕方がありません――は、後ろにつき従う従者に声をかけます。
「まだ見つからないのか」
その言葉に、ヒーローが不機嫌な理由がわかりました。ヒロインの捜索が難航してしまっているようです。
きちんとヒロインのことを探していることがわかり、まずは一安心、とあなたは気をゆるめます。
ヒーローが探してくれないことには、どうにもならないのですから。
あとはあなたがヒロインを見つける手伝いをすれば、ちゃんとハッピーエンドになるでしょうか。
「と、言われましてもねぇ。隊長から聞いた特徴の女性なんていくらだっていますよ。それに、女は化粧でだいぶ変わるものですから。ウィッグでも被っていたら見つけようがありません」
「やはり、地道に探すしかないか……」
ヒーローは疲れたようにため息をこぼしました。
よく見るとヒーローは、城下町の人々にまぎれ込めそうな、比較的質素な服装です。
きっとこれから職務の暇を縫って、あてもなくヒロインを探しに行くところなのでしょう。
けれど、それはいくらなんでも非効率的すぎます。
ヒロインへとつながる最大のキーアイテムを、なぜ使おうとはしないのでしょうか。
ヒロインがガラスの靴を落とし忘れたのかもしれない、と再度思ったあなたでしたが。
「彼女の落とした靴は証拠にはなりませんかね? ほら、あのガラス製の」
あっさり、従者の言葉でそうではないということがわかりました。
ではなぜその靴を使ってヒロインを捜索しないのでしょう。
あなたは静かにヒーローの答えを待ちました。
「靴のサイズだけで個人を特定できるわけがないだろう」
当たり前と言えば当たり前の理屈に、あなたはがっくりとしてしまいました。
たしかに、常識的に考えたら、靴のサイズが同じ人間なんていくらでもいます。
けれどこの物語はそういうものなのです。大前提を崩してどうするというのでしょう。
なるほど、物語が予定どおりに進行しない原因は、この男の生真面目さにあるようです。
これは困りました。
どうにかこの物語をハッピーエンドへと導くことはできないでしょうか。