質問2:続いて作品に深く関わることを

――お相手役のことを聞いてもいいかな? たとえば出会いとか。まずは美幸さんから。

「……わかってて聞いてるんなら、質問者性格悪いな」
「キーワードに恋愛とあるんですから、別に質問としてはおかしくないでしょう。耐えてくださいミユキさん」
「はいはい、しょうがないな。相手はトリップした国、ティルディートの第二王子、クラウス。王太子を支えつつ、騎士団を率いてる。でもって、騎士団使ってオレを追っかけ回してた張本人。捕まったときはむしゃくしゃしてて、どっちみち処刑だろうし、もうどうにでもなれって殴っちまったんだよな。そしたらあいつ、笑ってさ。すっげー怖い笑い方だったんだよ。悪役笑いってやつか? それだけ威勢がよければ充分使えそうだな、って。腹黒で性格悪くて性根も悪くて、たまに口も悪くなる。でも国のこととかちゃんと考えてる真面目な奴でもあるんだよな」
「腹黒、やだなぁ」
「ああ、正直あいつの腹の黒さはついてけないものがあった」
「そうでもしなければ生き残れない立場だったということでしょう。地位が高いというのは、僕たちにはわからない苦労もあっただろうと思います」
「お前も王子ほどじゃないけど地位があるから、気持ちがわかるって?」
「そんなおこがましいことは言えません。僕はただの地方貴族ですから」


――次、リートさんお願いね。

「はい。アリーシャは百年に一人の逸材とまで言われた、希代の歌姫です。孤児でしたので、孤児院の名をもらって、アリーシャ・テリエルと名乗っていました。孤児院が経営難で、少しでもお金を稼ごうと路上で歌ったのが歌姫になるきっかけだったそうです。僕が彼女を知った頃には、すでに町一番の歌姫でした。屋敷に招いたのは、そのとき私的な客人が来ていまして、彼がアリーシャの噂を知っていたからなんです。聴きたいから呼べ、と言うので、仕方なく。ちゃんと断ってもいいと伝えましたが、彼女からしてみれば領主の頼みを断れるわけもなかったでしょうね。そうして彼女の歌を聴いて、国にも……いえ、世界にすら通用する歌声だと、僕は思いました」
「そんな出会いだったのかー。一目惚れか?」
「……! いえ、その、たしかにアリーシャはとてもきれいな女性でしたが、それだけではなくてですね。歌を褒めたときの、緊張しながらもうれしそうな笑顔だとか、またあなたの歌が聴きたいと言ったときに見せた涙だとか。外見だけではなくて、性根が美しいのだと感じて……」
「あー、はいはい、わかったわかった」
「見事にのろけられたね」
「とにかく、アリーシャは素敵な女性なんです。……僕には、もったいないほどの」


――最後、ミーウェルミルシーさん。

「スー、スーカリオスラークはね、簡単に言うとヘタレ。それで説明がすむ」
「や、もうちょっと詳しく説明しなきゃダメだろ」
「めんどくさいなぁ。でも、しょうがない、ちゃんと話す」
「どうぞそうしてください」
「スーは、災悪の魔法使いって呼ばれてた。災悪の魔法使いっていうのは、強い魔力を持っているのに、その魔力をちゃんと制御できない魔法使いのこと。普通の魔力持ちは、修行とかももちろん必要だけど、長じるにつれて自然と魔力の制御の仕方を覚えていくものなの。大人になっても制御できない魔法使いは、災害を起こしたり、災いを呼ぶから災悪の魔法使い。身体が弱るとさらに制御できなくなるから、監視の元で飼い殺し? その監視から逃げ出してきたスーと、そのとき国でだいぶ名前が売れていた私は出会ったの。スーは、私の傍は落ち着くっていつも言ってた。最初は災悪の魔法使いって知らなかったから、意味もわかってなかったけどね」
「ずいぶんと……その」
「重い話でしょ? いつもはほのぼの展開だけど、根っこはシリアスなんだよね、私のとこの話は」
「つまり、お相手さんにとって魔女さんは癒しだったわけか」
「癒しというより、安らぎかな? 私のほうが魔力が高かったから、無意識にスーの魔力を抑えていたんだろうね」


――お相手のことも聞いたところで、そろそろ本題に向けて話を進めようか。どんなふうに完結したのか、教えてくれるかな? はい、美幸さんから。

「なんつーのかなー、オレたちの冒険はまだまだ続く! 的な終わり方か?」
「わかるようなわからないような……」
「それって打ち切りの少年漫画みたいだね」
「そもそも終わらせないために無駄に引き延ばす、本当に少年漫画的な話だったからなぁ。一度王子に捕まってからも、しばらくは王宮にいたけど、また旅に出るし。でもってまた王子の要請を受けて城に戻ったり、違う国にまで旅したりって、話数も時間経過も半端なくてな。オレはオレで、秘められた力的なのは残念なことにないんだけど、やっぱ旅慣れてったりだんだん強くなっていったりで。最終的にチートに近いものにはなってた気がする」
「よくそこまでの大風呂敷を畳められたね」
「設定とかは別に適当で、大風呂敷ってほどでもなかったからな。いつ終わってもいいような話だったっていうか」
「納得できる終わり方ではなかったのですか?」
「一応な、隣国と戦争になりかけてたのを王子とか王太子とかががんばって、オレもちょっとだけど力を貸して、同盟結んで一見落着、ってなったんだ。で、情勢も落ち着いたし、また旅に出っかなー、ってのを王子に話して。そしたら王子が、そろそろ外だけではなく内にも目を向けたらどうだ、とか言い出してな。どういうことだよって聞いたら、根無し草のお前を口説くのは大変そうだ、ということだ、って……うっわ〜なんか照れてきた」
「さすがだね、王子さま。幸さんみたいな人は、まずは意識してもらうところから始めなきゃダメだってわかってたんだね」
「なんだよ、オレみたいな人は、って」
「鈍感で天然。自分と恋愛とをくっつけて考えない人」
「たしかにそんな感じですね、ミユキさんは」
「マジかよ……」
「それで、続きは?」
「だから、それで終わりなんだ。オレの話は」
「……告白されて、さあこれから、ってとこで?」
「ああ。言ったろ? まだまだ続く、的な終わり方だって」
「それは、続きが読みたいと言う方も多かったのでは?」
「多かったなー。こんなとこで終わりなんて! とか、続編あるんですよね!? とか。オレはむしろ続かなくて助かったけどな」
「そりゃあ、幸さんは攻略される側だもんね」
「魔女さん、その言い方やめてくれ。なんかすげー嫌だ。そんなんじゃなくてさ、もうさ……」
「はいはい、ごめんごめん」


――さてと、その辺で。次はリートさんだね。

「僕の話も、ミユキさんのお話とは違う意味合いで、いつ終わってもいいような話だったのではないだろうかと思います」
「日常ものだもんね」
「そうなんです。ですが、僕個人としては、最良の最終話だったと言えます」
「へー、そりゃうらやましい」
「両思いになってしばらくして、僕はアリーシャに求婚をしたんです。けれど、断られてしまって……。アリーシャは僕との身分差のことをずっと気にしていたんですよね。僕は貴族と言っても田舎貴族で、領主と言っても治めているのは小さな領地です。田舎貴族が平民と結婚することはそこまでめずらしいことでもないんです。そう何度説明しても、アリーシャは悲しそうな顔をするだけで。嫌われているわけじゃない、僕は彼女に好かれている、ということは、そのときにはもうちゃんと理解していました。それでも、アリーシャは勝手に溝を作ってしまう。僕はもどかしく思いながらも、どうすることもできませんでした」
「それでよくハッピーエンドになったな」
「そんなある日に、僕に縁談が持ち上がったんです。相手は隣の領地のご令嬢でした」
「ああん? お前、鞍替えする気か!?」
「落ち着いて、幸さん。相手役がそのつもりだったらハッピーエンドにはならないでしょ」
「あ、それもそっか」
「縁談は、僕は当然ですが、ご令嬢のほうも乗り気ではなくて、一度対面しただけでお流れになりました。でも、アリーシャは何か誤解をしたようで、急に訪ねてきたと思ったら、すがりつかれまして。……その、告白というか、求婚をされました」
「リー、顔がにやけてる」
「リー……とは僕のことですか?」
「うん」
「……僕のことは呼び捨てなのですね」
「なんとなく」
「はあ……」
「気にすんなよ、子爵。で、続きは?」
「きちんと誤解を解いてから、改めて、僕のほうから求婚をしました。アリーシャは泣きながらうなずいてくれました。彼女の涙はとても澄んでいて、きれいでした。僕は彼女以上に美しい女性を知りません」
「ナチュラルにのろけるの、やめてくれ。なんか恥ずい。リア充爆発しろって言いたくなる」
「りあじゅう……?」
「ダメだよ幸さん、異世界じゃそれは通じないから」
「えー、これ、他に言いようないだろ」


――さてと、そのくらいでいいかな。ミーウェルミルシーさんは、どうだった?

「そうだなぁ、なんて言えばいいんだろうね。キーワードのとおり、ハッピーエンドだったと思うよ」
「や、それだけじゃわかんないだろ。もっと具体的にだな」
「最終話というか、最後のほうの展開を話すと、スーと一緒に国を出た。スーは災悪の魔法使いとして有名になりすぎたから。違う大陸にでも行けば、スーを知っている人もいなくなるかなって」
「そりゃまた思い立ったな」
「私はスーをしあわせにするって決めたから。旅はそんなに楽なものじゃなかったけど、私は最強の魔女だし、スーも制御さえちゃんとできればかなり優秀な魔法使いだから、たいていのことはなんとかなったよ。海を渡って、違う大陸に行って、海沿いの町がのどかでいい感じだったから、そこに住むことに決めたの。最後にね、ずっと一緒にいる約束をしたんだよ。スーの魔力の不安定さが解決されたわけじゃない。でも、私がいればスーの魔力を抑えられる。二人でいれば大丈夫だよ、って楽観的に考えてみることにしてね」
「いいんじゃないか、悲観的になるよりも」
「ええ、そのほうがきっと未来は拓けるでしょう」
「ほんと、そうだったらよかったよね。今になってみると、甘かったなぁって思うけどね」
「……だなぁ」
「……そうですね」



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