質問3:エピローグのその先を

――さて、お待ちかねの本題。完結したその後の話を聞かせてよ。まずは美幸さんからね。

「王子の告白なんて単なる気の迷いだって決めつけて、結局旅に出たんだよな。そしたらいつもと違って、定期的に通信が届くんだ。もちろん王子から。あ、通信ってのは魔法を使った電話みたいなもので、声だけの場合と、映像もついてる場合とあるんだけど。王子こそチートなもんだから、毎回映像つきでさ。ゲロ甘な台詞を次から次へと……。通信って送ってきた側からしか切れないから、もう、物理的に耳ふさぐしかできなくて、恥ずかしすぎて死ぬかと思った」
「王子さまもやるねぇ。それで?」
「そんなのが数ヶ月続いたんだけど、王太子に刺客が送られてきたらしくてさ。同盟結んだ隣国なんじゃないかってことで、またギスギスしてきたみたいで。王子も軽くだけど怪我したって聞いて、オレ、すげー心配になってさ。それで気づいたんだよな。あ、オレ王子のこと好きなのかって」
「ひゅーひゅー」
「口笛吹けてないぞ。で、オレが傍にいれば王子を守ることもできるんじゃないかなって、城に戻ったんだ。王子に告白の返事することまでは考えてなかったってか、けっこう混乱してたし、今はそれどころじゃないって後回しにすることにして。そしたらさ、王子、なんて言ったと思う? 隣国の王女と結婚することになった、って。決定事項として告げてきやがったんだぜ!?」
「あーあ」
「それは……なんとも……」
「隣の国も一枚岩じゃない。争うより取り込んだほうが利は大きい。王太子はもう結婚してるし、表向きは対等な同盟関係なのに側妃にするのはよろしくないってんで。しかも押しつけられたとかじゃなくて、自分から提案したんだってさ。俺の気持ちはお前にあるが、これは政だ。お前のことはきっぱり諦めるから、好きなように生きろ。って言いやがった」
「幸さん、顔怖い」
「ああそうだよな知ってたさ! あいつにとってオレなんて国のためなら簡単に切り捨てられる存在なんだってことくらいさ! だからって、だからって、オレもあいつのことが好きなんだ、って気づいたタイミングでとか、どんないじめだよおおおおおおおおお!!!! 振るなら初めっから粉かけるな! 俺の妻になってほしい、とか言うな!!」
「かわいそうに……」
「オレだってさ、わかってたんだよ。住む世界が違うんだって。でもさ、あんだけ熱烈に求愛されたら、嫌でもその気になるだろ! こちとら場数踏んでる王子サマと違って恋なんかしたことなかったんだっての!」
「熱烈にって、どんなこと言われたんだろうねぇ。気になるけど、それ聞いたら傷口に塩を擦り込むことになるよね?」
「そうですね、確実に……」
「もうさ、そんな状況で国にいられるわけないじゃん。その日のうちに飛び出したさ。どうせ根無し草だもんな。言葉は魔法具のおかげでどこの国でも通じたし、ティルディートと国交のない、遠く離れた国に行ってやるって思って。現在その旅の途中。こういうのも傷心旅行って言うのか? はは……」
「ど、どうなんでしょうね?」
「もう男なんて絶対信じない! 恋なんてくそ食らえ!! でも国のために私情を捨てるようなとこも嫌いになれないんだよおおおお!! いっそのこと、恨みたいのに!! ああもうクラウスのバカ! あんなん好きになっちまったオレのバカーっ!!」


――大荒れだね。収集つかなさそうだから、次、リートさんお願い。

「婚約期間は、一年ほどの予定でした。その間に、婚礼の衣装やら、宴の準備やら、招待状の準備やら、本当に色々な支度をします。忙しくもありましたが、この先の幸福のためと思えば、それすらもうれしく感じました」
「しあわせそーでいーよな〜、ケッ」
「幸さん、妬まない妬まない」
「……しあわせが、続けばよかったのですが」
「何かあったのか?」
「アリーシャは、歌姫です。婚約の準備をしながらも、歌姫として活動を続けていました。そのアリーシャに声をかける者がいたのです。アリーシャの歌声に感動し、こんな田舎にいるのはもったいない。自分は音楽の国、エリシオールの生まれだ。あなたの歌声なら自国でも充分に主役を張れる。歌の勉強にもなるだろうから、一度エリシオールに来てみないか、と。アリーシャは都でも大観衆の前で歌を披露できるほどの歌い手です。生まれ故郷というだけで、田舎に居を構えているのは、たしかに才能を埋もれさせることになってしまうのかもしれません。だから、僕は言ったんです。何年でも待つから、アリーシャのしたいように生きてほしい、と」
「なんとなく、先が見えた気がする」
「ああ、オレも……」
「……ご想像のとおりだと思います。アリーシャは旅立ちました。よい音と出会い、己の歌を、よりよいものとするために。歌で生きていくために。そうして、あっというまに四年が過ぎました。初めは定期的にやりとりしていた手紙も、少しずつ減っていき、僕のほうから送るばかりとなっていました。数ヶ月前、一年ぶりに届いた手紙には、こう書かれていました。自分はエリシオールで成功している。帰るつもりはないから、もう自分を待たないでほしい、と」
「お前も捨てられたんだな……」
「ええ、悲しいことに。でも、アリーシャは僕にはもったいない女性でした。元から手の届かない存在だったのかもしれません。夢に生きる彼女はとても輝いていて、素敵なのです。今は、遠くから彼女の前途を祝すことしかできません」
「どんまい、リー」
「……はい、ありがとうございます」


――それじゃあ最後にミーウェルミルシーさん、どうぞ。

「説明するの面倒だから、詳細は省くけど、うっかりポカして私が死にかけてね。そしたらスーは魔力を暴走させちゃったみたいで、嵐を呼んじゃったんだ。で、私が回復して動けるようになったときには、災厄を呼んだ災悪の魔法使いとして、スーはもう処刑されてた」
「それは……」
「え、それって死にネタっていうか、え、え?」
「全然ハッピーエンドなんかじゃないよね」
「だ、だな……」
「ハッピーエンドのそのあとなんて、そんなものなのかもしれないね。話が終わって幕が下りたあと、その裏で何が起こるのかなんて、観客は誰も気にしない」
「そう考えると、寂しいな」
「でも、大丈夫。来世で再会できるようにって、魂に印をつけておいたから」
「は? どうやって?」
「スー、処刑されてからも魂がしばらく地上にとどまってたの。私のことが心配だったみたい。変だよね、自分のことを心配すればいいのに。ほんとバカみたいなスー」
「それだけ、お前のことが大事だったんだろ」
「まあそうだろうね。で、そのとどまってた魂に、私の魔力を注いで印をつけたの。魔力は人の魂からあふれるもの。私の魂と、私の魂から生まれた魔力とは、引き合う。きっと来世で会うことができる。ずっと一緒の約束は、来世で叶える」
「なんか、すげーんだな。これが本当のチートってやつか」
「本当はすぐにでも来世に行きたかったんだけどね。スーが、私に生きてって言ったから、ちゃんと生きるよ。大丈夫、長くてもあと百年はないだろうから」
「……あの、気を落とされないでくださいね」
「気を落としてなんていないよ。だって、来世になればまた会えるんだから。今はさよならしているだけ。一時の別れ、だよ」
「それなら、いいんですが……。いえ、いいんでしょうか?」
「ダメなの?」
「ミーウェルミルシーさんの来世だけでなく、今世も、幸福なものとなればと思うのですが。……すみません、差し出がましいことを申しました」
「リーは難しく考えるね」
「そうでしょうか?」
「ミーって呼んでよ。私たち魔女は、名前を短く呼ぶのが普通なの。そうすることで真名を使って呪わないこと、つまり敵意がないことを表しているんだよ」
「それは、知らなかったとはいえ、失礼しました。ええと、ミーさん?」
「うん」



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