あなたはヒロインを目覚めさせてもらうために、嘘をつくことにしました。
このまま眠り続けると彼女は死んでしまう、と悲壮感たっぷりにヒーローに告げます。
悪き魔女の死の呪いは、善き魔女によって緩和され、眠りの呪いになりました。
どれだけ眠り続けたとしても、ヒロインが亡くなることはありません。
けれど、嘘も方便です。
ヒロインの命を天秤にかけなければ、ヒーローの意志は変わらないだろうという確信のようなものがありました。
「本当に?」
ヒーローは疑い深いようで、簡単には信じてくれません。
しばしにらめっこ対決となりました。
睨むというほど視線は鋭くありませんが、気分は蛇に睨まれた蛙です。
あなたはボロを出さないように、ただうなずきを返します。
多くを語ったところで彼には意味がないでしょう。
「まあ、どっちでもいいか」
にらめっこはそれほど長くは続かず、唐突にヒーローはあなたから視線を外しました。
本当にどうでもよさそうな口ぶりです。
そんなに簡単に覆されるような意志だったのでしょうか。
ヒーローが何を考えているのか、あなたにはまったくわかりませんでした。
「対リスクを考えた結果だよ。タイミングを計るのも重要だけど、それ以上に、君の言葉が本当だった場合のリスクが大きすぎる」
あなたが不審に思ったのを感じ取ったらしく、ヒーローは面倒くささを隠そうともせずに説明しました。
なるほど、たしかに彼の言葉には一理あるように思えました。
信じないことでのリスクのほうが高いから、嘘かもしれなくても一応は信じておこう、ということなのでしょう。
ヒーローはかなり合理的な考え方の持ち主のようです。
「まあ、少し計画を変更する程度ですむしね。咲姫が起きてからだって、いくらでもやりようはある」
頭脳派のヒーローは脳内で計画を立て直しているようです。
それがどんなものかはわかりませんが、きっとハッピーエンドになるために必要なものなのでしょう。
ヒーローがヒロインを最優先にしているのは、先ほどの答えでわかりました。
ならば、ヒーローはどんな手段を使ってでも、ハッピーエンドを勝ち取るはずです。
心配事がなくなって、安堵が心中に広がっていきます。
「キスシーンを見たいならどうぞご自由に。でも、できれば二人っきりを邪魔されたくはないかな」
ちらりとこちらに視線を向けたヒーローは、平坦な声音でそう言います。
あなたは別に、覗き見の趣味があるわけではありません。
ヒーローがヒロインを目覚めさせるのであれば、あなたがここにいる理由はなくなりました。
目が覚めたヒロインはヒーローと恋に落ち、めでたしめでたし、となるのです。
それこそ、あなたの望んでいるハッピーエンドでした。
あなたはこの物語から去る前に、最後にこう言い残しました。
二人のしあわせを願っている、と。
「もちろん、しあわせになるよ」
そう答えたヒーローは、少しだけ笑みを浮かべていたように、あなたには見えました。
「ふぁ……」
「おはよう、咲姫」
「あれ? おはよう季人。私、寝てたの?」
「うん、ずっとずっと寝てた」
「そっか、起こしてくれてありがとう」
「……ちょっとだけ、感謝かな」
「は?」
「ううん、こっちの話。タイミングも重要だけど、咲姫が起きていないとつまらないもんね」
「よくわからないんだけど」
「咲姫が起きてくれてうれしい、ってこと」
「……ふぅん。まあ、私も、起きて最初に見た顔が季人でうれしいよ」
「咲姫にしては素直だね」
「すごく久しぶりな気がするから」
「ずっと寝ていたからね」
「寝坊しちゃったなぁ。今、外の世界はどうなってるんだろ?」
「だいぶ変わったよ。でも、大丈夫。全部俺が教えてあげるから。咲姫が心配するようなことは何もないよ」
「……相変わらず、甘々だね、季人は」
「咲姫限定でね」
パスワードその4「s」
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