あなたは手っ取り早い解決策を思いつきました。
物語のとおりなら、ヒロインは塔から追い出されているはずなのです。
それが、なにがしかの理由でヒロインが塔を出ていないというのなら、あなたがヒロインをここまで連れてくればいいのです。
物語に深く介入してしまうことにはなりますが、ハッピーエンドにすることができるなら気にすることはありません。
早速、ヒロインのことは自分に任せてほしい、自分がここまで連れてこよう、とあなたはヒーローに提案しました。
ヒーローはしばらく難しい顔をしていましたが、やがてうなずきます。
「一時間。その間に何も動きがないようなら、オレも砦に行くよ。それまではここでおとなしく待ってる」
その言葉に了解を返し、あなたは塔へと向かいました。
塔までの距離はそれなりにありましたが、物語の管理人であるあなたには空間への干渉ができます。
すぐに目の前に見えてきた塔は、とても高くそびえ立っていました。
ヒロインが髪を下ろしてくれるはずはないので、あなたは再度空間へ干渉し、塔の内部へと入り込みました。
すると、いくらも待たないうちに、魔女が姿を現しました。
「今度はどんなねずみが入り込んだかと思ったが。……お前は誰だ」
怜悧な美貌の魔女――どう見ても男ですが、設定上魔女と呼びます――は、あなたを睨みつけてきます。
普通の人間であればそのまなざしだけで凍ってしまいそうなほど、恐ろしい形相でした。
あなたはまず、交渉することにしました。
自分には魔女を倒せるだけの力がある。けれど手荒な真似はしたくない。できたらおとなしくヒロインを引き渡してくれないだろうか。
そう告げると、魔女は冷たい顔を険しくしかめます。
「何を勘違いしているかは知らないが、俺は彼女を保護しているだけだ」
……はい?
あなたは首をかしげました。
いったいどういうことでしょうか。
魔女はヒロインをここに閉じ込めている張本人です。
それが、保護とは。
ものは言いようだということでしょうか。
「あんな世間知らずを、一人で外に出せるわけがないだろう」
むっつりとした顔で、魔女は言います。
その言葉には一理あるように思えました。
あなたは魔女の話を詳しく聞いてみることにしました。
遠くさかのぼると、キャベツを盗んだ夫婦は子どもも育てられないほどに貧しかったそうです。
そのため魔女はヒロインを保護し、今まで育ててきました。
好奇心旺盛すぎて危険にもつっこんでいく少女を、仕方なく魔女は高い塔へと押し込めました。
とはいえ塔の中には様々な施設があり、ここだけでも充分退屈はしない作りになっているそうです。
ヒーローのことはすでに調査済みで、ヒロインを預けてもいいかもと思いつつ、途中で放り出されては困るので、本気かどうか見極めさせてもらおうと塔から落としたのだとか。
もう一度ヒーローがやってくるかと待っていたらあなたがやってきたものだから、魔女は予定が狂ったと不機嫌なのでした。
そういうことなら、とあなたはヒーローの覚悟のほどを語りました。
彼はヒロインを一生面倒見ていくつもりがある、と。
それに協力するために自分はここに来ただけなのだと。
もし自分がヒロインを連れていけなかったら、しばらくすれば彼はここにやってくることも話しました。
「……まあ、あいつならば問題はないとは思っていたが」
魔女は怖い顔を和らげ、小さくつぶやきました。
どうやら許してもらえそうな感じです。
「一応、取り扱いについて口で説明もしたいから、どっちみちあいつには一度ここに来てもらわなくてはな」
魔女はそう言うと、きれいな緑色の髪をした妖精を呼びました。
妖精にヒーローを呼んできてもらうようです。
そうなれば、あなたはもうお役ごめんです。
ヒーローとヒロインがハッピーエンドを迎えることができれば、それでいいのですから。
仲むつまじい二人を見てみたい気もしましたが、それは帰ってから本で読むことにしましょう。
二人にお幸せに、と伝えてもらえるよう魔女に頼み、あなたはその物語から帰還しました。
「あ、エリオさん! お久しぶりですー」
「……まったく緊張感がないね、フィーラ」
「エリオ、こんな奴だが、本当に後悔しないな」
「あー、うん。もう覚悟は決めたよ」
「? どうかしたんですか、二人とも」
「フィーラ、お前はエリオについていくことになった」
「え!? この塔から出られるんですか!?」
「ああ。そのためにも、長すぎる髪は目立つからある程度は切れよ」
「せっかくきれいな髪なのに、もったいないけどね」
「重たくって動きにくいので、むしろさっぱりします!」
「じゃあ、行こうか。外の世界は危険がいっぱいだけど、オレが守るから。オレから離れないようにね」
「はい、絶対離れません!」
「……たまには便りくらいよこせよ」
「はーい!」
《寂しくなるね、タクサス》
「以前の生活に戻るだけだ。お前がいればそれでいい」
「では、出発しんこー! です!」
「無駄に元気だね、フィーラは」