それはその夏一番の暑さの日。
何もこんな日にガーデンパーティーを開かなくても、と誰もが思ったかもしれない。
本日主催側になったシュア家は、せめてもとしっかり冷えた飲み物を出せるようがんばった。
おかげで、手伝わされたわたしは、ガーデンパーティーが始まる前からぐったりとしていたんだけども。
「お疲れさま、かな?」
そう声をかけてきたジルを仰ぎ見て、目をぱちぱちとさせた。
「あれ? ジル、今日はポニーテールなんですね」
日の光を浴びて無駄にキラキラと輝く白金の髪は、今日は頭の上の方で一つに結わえられている。
それはかすかな風にそよいで、なんというか……いつも以上にきらめかしい。
さすが絶世の美形。どんな髪型でも似合う。
「うん、暑くて。これなら首に髪がかからないから」
「気持ちはわかります。今日は暑いですね」
わたしは手に持っていた扇でハタハタと自分をあおぐ。
生ぬるい風でも、あるだけマシだ。
この国は四季が穏やかで、暑いといっても前世の夏ほどではない。たぶん北の島の夏と同じくらい。
とはいえ、喉元過ぎれば熱さ忘れるという言葉どおり、前世よりも涼しい夏でわたしは充分へばっている。あつさ違いだけど。
わたし以上に暑さにも寒さにも弱いジルなら、今日はそりゃあもう地獄みたいな日だろう。
「こんな日は家から一歩も出たくないのに……」
「さらりと引きこもり発言しないでください」
ため息混じりのジルの言葉に、わたしはツッコミを入れる。
「だいたい、別にガーデンパーティーは強制参加じゃないんですから、来なければよかったじゃないですか」
この国で日常的に開かれるガーデンパーティーは、お国柄なのかめちゃくちゃゆるい。
この日に開催するからよかったら来てくださいね、という手紙を出すだけ。出欠席は取らない。
手紙をもらったからって来なきゃいけないということはなく、けっこう気楽に欠席できる。
本気でゆるいので、手紙を受け取った人以外の飛び入り参加すら許されている。
だから別に外に出たくないなら欠席すればいいだけのこと。
家から一歩も出ないことだって可能だろう。あんまり褒められたことじゃないけど。
実際、今日はいつもより出席者が少ないんだから。
「嫌だよ。せっかくエステルに会えるのに」
きっぱり、ジルは言った。
来ないなんて選択肢は最初からなかったとでもいうように。
風が吹く。ジルの髪をさらっていく。
好き勝手に風に遊ばれる髪が、光を反射する。
わたしの髪は少しクセがあるから、ジルのさらさらストレートはうらやましくもある。
きれいだな、と素直に思った。
「エステル?」
じっと見ていたことに気づいたのか、ジルが不思議そうにわたしの名前を呼ぶ。
わたしははっとして、ごまかすように扇で自分に風を送る。
「いえ、その髪型、意外と似合ってますね」
きれいだなんて、口が裂けても言いたくない。
普通の男なら喜ばないような言葉でも、相手がジルだというだけで慎重にならざるをえない。
だから思ったことの一片をそう口にしたんだけども。
それですら、ジルを調子に乗らせるには充分だったりしたらしい。
「ひょっとして、惚れちゃった?」
いつのまに距離を詰めたのか、わたしの耳元で。
色気を含んだささやき声がこぼされた。
ゾワッと、鳥肌が立つような感覚。
肩を震わせたわたしを、ジルはただ上機嫌に見つめるだけ。
「んなわけないでしょう!!」
声の大きさと言葉遣いをあとで兄さまに叱られることになるんだけども。
それでもそのときは大声を上げてもしょうがない状況だったと、わたしは思うわけなんです。