遠慮のない変態

「ジルってあんまりお菓子食べませんね」

 ガーデンパーティー中、当然のように隣の席に陣取っているジルにわたしは話しかけた。
 なんだかんだで無視できない存在感があるから、ついついこうやって話してしまう。

「エステルを見ているだけでお腹いっぱいだからね」
「そう言うなら見ないでください」
「無理。僕の主成分はエステルだから」
「キモッ!」

 笑顔で鳥肌モノのセリフを語るジルに、わたしは思わず声を上げた。
 主成分って、主成分って何……!?
 わたしはタンパク質ですか! カルシウムですか!

「エステル、言葉遣いが乱れてるよ。親しみを込めてのことならうれしいけれど」
「そんなわけないじゃないですか! あなたが変なこと言うから……!」

 途中で自分の声の大きさに気づいて、口を閉ざす。
 それから、落ち着くために深呼吸をした。
 いけないいけない、知り合いばかりとはいえ一応ここは社交の場だ。
 このままさわぐと人の目を集めてしまう。

「だいたいですね、母さまのお菓子を食べないなんてもったいなさすぎます。兄さまなんて目の前に置いとくと全部食べちゃうくらいなのに」

 平常心を取り戻してから、わたしは話を元に戻した。

「アレクは特殊な例じゃないかな」
「まあそうですけど」

 ジルの含みのある苦笑を浮かべての言葉に、わたしも否定できずに同意した。
 兄さまの甘党っぷりはね、たしかに特殊というか特別だよね。
 そんなところもかわいいって思っちゃうんだけどね。

「僕だって甘いものは嫌いじゃないよ」
「じゃあなんで食べないんですか?」

 わたしは小首をかしげた。
 嫌いじゃないっていうのは、一般的には好きなほうということだ。
 なら好きなだけ食べればいいのに。ジルに遠慮は似合わない。

「一番食べたいものが目の前にいるからかな」
「やっぱりキモッ!」

 ヒ〜! と今度こそ大声を上げて、わたしは兄さまのところまで逃げた。
 ジルは遠慮がなさすぎるのにもほどがある。


 変態は撲滅すべきだと思います!



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