甘党な兄さま

「兄さまって、前世でもそんなに甘党だったんですか?」

 二人っきりでお茶をしているときに、ふと思いついてわたしは聞いた。
 ちょうど母さま特製のマフィンを頬張っていた兄さまは、口のものを飲み込んでから、考えるように視線をさまよわせた。

「いや、そうでもなかったが」

 まあ、そうだろうなとわたしは納得した。
 前世の兄さまは根っからのお仕事マンだったと聞いている。
 楽しみは仕事だけだったんだろう。食事も栄養食品とかですませちゃうイメージだ。

「身体が違うと味覚も変わるんですね。わたしはまだ子どもだから、これからもころころ変わると思うんですけど」
「そうだな、子ども舌というやつか」

 そう言って微笑みながら、兄さまは今度はクッキーに手を伸ばす。
 ……ティータイムのはずなのに、兄さまはお茶を楽しむよりもお菓子ばかり食べている。

「でも、その子ども舌でも、兄さまの甘党っぷりには負けます」

 わたしの言葉に、クッキーを持った手を一瞬止める。
 でも、結局はクッキーの魅力に負けたようで、それは口の中に消えていった。
 次はチョコチップマフィンかな? アーモンドクッキーかな? 軽食のサンドイッチに手を伸ばす気配はなさそうだ。
 そんなに食べていてよく太らないなぁと思う。鍛えているからだろうか。
 母さまのお菓子がおいしいのはわたしもよく知っているけどね。

「兄さまの未来の奥さん、母さまみたいに料理好きだといいですね。おいしいお菓子いっぱい作ってもらえますよ」
「それは幸せだろうな」
「……兄さま、それを判断基準にしちゃダメですよ?」

 あまりにもキラキラとした瞳で兄さまが言うものだから、わたしは心配になる。
 性格だとかお互いの相性よりも、お菓子作りの腕を基準にしたら大変なことになってしまう。
 兄さまの奥さんということは、わたしの義理の姉になるんだから、ちゃんと仲良くできる人がいい。
 何より兄さまを幸せにしてくれる人じゃないと!
 ……お菓子で、じゃなくてね?

「い、いや、そんなことはしない」

 珍しくどもった兄さまを、わたしはじとーっとした目で見た。


 兄さまの結婚相手は、事前にチェックしておいたほうがいいかもしれない。



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