今は、ふたつの雪だるま

 関東で十年ぶりの積雪量だなんて、ニュースのお姉さんの声を聞いて。
 つい、五百キロ西の県はどうなんだろうとぼんやり考えていたら。

「雪だるま作ろう!」

 そう君は言い出した。
 勢いに押されてうなずいた僕も、歩いて五分の小さな公園に着いたころには、もう後悔しはじめてた。

 寒い。ありえないくらい寒い。
 冷たくて重たい風が、いじめっ子のように思える。
 あんまり履く機会のない雨靴は動きにくくて、少し雪が入り込んでしまった。
 冬は毎年からっ風ばかり。同じ寒さなら雪が降ればいいのに。
 そんなことを言っていたのは、僕以外にももう一人、いたけれど。
 全然、同じじゃなかった。とにかく寒い。

 僕が動けずにぶるぶると震えてる間も、君はせっせと雪を丸めていた。
 にこにこと、提案をしたときと同じ笑顔で。
 寒さなんて感じてないんじゃないかってくらい、楽しそうだ。
 つられて笑みをこぼしたら、ちょっとだけ、寒さが和らいだ気がした。

 君が楽しいなら、寒くてもいいやって思えてくる。
 いつまでもでくのぼうでいるのはかっこ悪い。
 僕は近くの雪をかき集めて、サッカーボール大の雪玉を作る。
 ころころ、音もなく雪の上を転がす。
 周りの雪がくっついて、だんだん大きくなっていく。
 むくむくと、ふくらむのは雪だけじゃなくて、ワクワク感。

 ああ、やっぱり。
 君は楽しむ天才だなぁ。と僕は実感する。

 いつも振り回されて、でもそれ以上に、ワクワクドキドキを教えてもらえる。
 寒さだって、楽しくしてしまう。
 ……今、ここにあの子がいたら、きっと同じ顔をしてるんだろう。
 『やっぱりすごいね』って、きっと同じことを口にするんだろう。

「大きいの二つ作ろうね」

 雪を転がしながら君の隣に行って、僕は言う。
 ピタリ。君は足を止めて、僕を振り向く。

「……二つ、でいいの?」

 少し不満そうな顔。
 三つ、作るつもりだったんだろう。
 僕と君と、あの子。
 分かっているけれど、僕は二つにしたかった。

「うん、今はね」

 僕はにっこり笑って答える。
 あの子はいつか帰ってくるって言っていたんだから。
 だったら、帰ってくる前に完成していたんじゃダメだ。
 帰ってきたあの子と一緒に作って、初めてそろう。
 そのほうが、きっといい。

 寂しいとか、会いたいとか、大好き……とか。
 手紙じゃ届けきれない気持ちを、今は、大切に飲み込んでおいて。
 あの子が帰ってきたら、全部あまさず伝えたいから。
 土に解けて消える雪には、込めずにいよう。

 君の泣きそうな笑顔に、僕も苦笑い。
 向かいの家の幼なじみを、お姉ちゃんと呼んで慕っていた妹。
 笑顔の下にある寂しさなんて、バレバレだ。

『“お兄ちゃん”、“妹”をよろしくね』

 お別れの日――ううん、またいつかを約束した日。
 あの子はわざと茶化すように、そう言っていたから。
 妹と、二月だけ年下のあの子の兄として、僕はもっとしっかりしないといけない。



 雪だるまの写真を撮ってあの子に送ろう。
 僕が提案したら、妹はやっと笑ってくれて。
 お父さんのカメラを貸してもらうため、家まで走った。

――きみの場所だよ

 不自然に空いた二つの雪だるまの間には、そう書こう。なんて考えながら。



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