初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はどーもおなじみサクラです!
成人してるわりにテンション高いとか言われそうだけど、ハタチなんてまだまだ子どもですよ、子ども! お酒が飲めるだけの子ども!
いや私も成人した直後はこれで大人だーとか思ってたんですけど、異世界トリップなんて思いもよらない経験をして、知らない土地で暮らして違う価値観の人たちと接してみて、自分ってまだまだ子どもだったんだなぁと思い知ることも多くてですね。
この世界では二十歳っていうのはもう大人も大人のはずなんですが、私はまだまだ勉強中の身です。
と、いうのはまあどうでもいいことなんですが。
そんなまだまだ“もう少し頑張りましょう”な私ですが、なんと、とっても素敵でめちゃくちゃかっこいい恋人がいたりします!
その名も、グレイス・キィ・タイラルドさん! 第五師団隊長さんです! なんか偉そうな名前ですがどうやらお貴族様の模様です! 詳しくは待て次回!
本当に、色々まだまだな私を、そのまま好きだって言ってくれる、隊長さんはそんな優しい優し〜い人なんです。
その優しさに少しでも応えられるように、この世界になじんでいく努力をしたいな、と思っているのが現状。
目下の目標は、隊長さんのことを名前で呼べるようになることです!
「ということで隊長さん、おはようございま……あーまた間違えたー!!」
「何をやってるんだ……」
「気合を入れて名前で呼ぼうと思ったのにいつものクセが!! このおバカな私の口がーっ!!」
ぎゅむぎゅむと両手で頬を揉むように押しつぶす。
朝一番の名前呼びチャレンジ、しょっぱなから失敗してしまった……。
ううむ、心の中でもいまだに隊長さん呼びなのがいけないのかもしれない。かといってすぐに改められるかっていうと、もうこれは無意識のものだからなぁ。
気合を入れてもこんなんじゃ、自然に呼べるようになるのはいったいいつになるやら……。
「別に、無理に呼び名を変える必要はないだろう」
「でも隊長さんも名前で呼ばれたほうがうれしくないですか?」
私がベッドの上くらいでしか名前を呼ばないこと、寂しそうな感じに言っていたもんね。
隊長さんの望みは、可能な限り叶えてあげたい。
色々と我慢させたり、苦労させたりしちゃってる分、それくらいは、って思うのに! なのに私の残念な頭がー!
「それは……いずれは、とは思うが」
隊長さんはちょっと困ったように眉を寄せて、語彙を濁す。
私を映す灰青色の瞳は、嘘をつかない。
自らの望みも、私へのいたわりも、全部教えてくれる。
優しくて、あったかくて、寒い冬の夜に飲むココアみたいに甘い。
「焦らなくていい」
ぽんぽん、と大きな手が頭の上に降ってくる。
ふわっふわの毛布で全身を包まれるような安心感に、へにゃっと表情が崩れた。
隊長さんはこうやって、いとも簡単に私の心を軽くしてしまう。
やっぱり、好きだなぁって、そのたび実感する。
「あーほんと隊長さんって優しいなぁ。私好みのワイルドな見た目の中身がそんなジェントルってどういうことなんでしょう。ギャップ萌え通り越して一日三回は惚れ直してます」
「……そうか」
隊長さんはなんていうか、苦いものと甘いものと酸っぱいものを一緒くたに飲み込んだような顔をした。
本心そのままを言葉にしただけなんだけど、何か変だったかな?
私はどっちかというとガッシリした体格の人がタイプで、今まで付き合った人もみんな運動部だったり趣味でスポーツをやってる人だったりした。
お兄ちゃんがそういう人だから、自分の中での基準値みたいになってるのかもしれない。
隊長さんはお兄ちゃんより背も高いし体格もいいし、何よりかっこいい! 文句なしのイケメン!!
それでいて性格は真面目で誠実、優しくて気遣い屋さんで、なのにベッドの上では情熱的、って隊長さん完璧すぎませんか?
この人私の恋人なんですよすごいでしょう!
「今日も隊長さんのことが好きです! 昨日より好きです! 愛してますメロメロですもう好きにしてください!!」
なんか余計な言葉も混じった気もするけど、気持ちが伝わればオールオッケー。
打算から始まった私の好きって気持ちが、どのくらい続くのか、一生続くのかなんて、私にもわからない。
でも、少なくとも今は隊長さんのことが本気で好きで、日を増すごとに気持ちがふくらんでいっているのはたしかだ。
嘘偽りない愛情を、毎日伝えたい。私がもらってる安心を隊長さんにもあげたい。
私の百回の『好き』が、隊長さんのたった一回の『愛してる』より軽く響いても、伝え続けていれば同じに近づくはずだから。
何度も何度も好きって言って、言った分だけもっと好きになる。それってとっても素敵なことだと思うんだ。
そんなふうに考えられる自分のことを、私はちょっぴり好きだったりする。
「なんなら今すぐベッドにGOでもいいくらいなんですけど、仕事をサボっちゃうのはよくないので夜這いに行くまで待っててくださいね!」
さすがに朝っぱらからサカッたりはしませんよ。これから仕事だし。
休みの日なら、日の高いうちから耐久レースってのもまたオツなものだけどね!
すーぐ調子に乗っちゃうのは私の悪いクセ。直したいと思ってはいるけど、これはもうこういう性格な気もするからどうにもできないかもしれない。
隊長さんは眉間に深いシワを刻みながら、はー……ってため息をついた。
怒ってるんじゃなく、呆れてるんだってわかってる。呆れてるけど、これくらいで私のことを嫌になったりしないってことも。
わかっちゃうから、余計に調子に乗っちゃうんだよね。そんな私の甘えを、隊長さんは受け入れてくれちゃうから。
めんどくさい女でごめんなさい、って心の中で何度だって謝ってる。
「爪でも研いでおけばいいのか?」
きゃー、隊長さんったらやっぱり情熱的!
私のおバカな発言にもこうやって乗ってくれるところ、本当に大人だなぁって思う。
かっこよくて素敵な理想の恋人に、私はにんまり、と笑って。
「おいしく食べてくださいね!」
私と隊長さんの恋物語は、こうしてずーっとらぶらぶであまあま……の、はず!
お願いだから隊長さんにこれ以上苦労させるような展開にはしないでくださいね、と私はメタ発言も気にせず天の神様に祈るのでした。