●『「おいで」と相手に向かって手を伸ばしている』『サクラとグレイス』を描きor書きましょう。
みなさんおはようございます。
今日も気持ちのいい朝です。
まあそれ以上の気持ちのよさを私は昨夜経験ずみなわけですが。健全じゃない内容なので詳細は割愛します。
当然というかなんというか、私は現在隊長さんの寝室にいます。
まどろみが気持ちよくて、ごろごろとしていたんですが、そろそろ起きて支度しないと、朝ご飯を食べる時間がなくなってしまいます。シャワーも軽く浴びたいしね。
隊長さんはとっくの昔に起きていて、すでに着替えも終わっています。
今はベッドの脇の書机にて何やら手帳を確認中です。
ベッドから降りようとした私は、重大な事実に気づきました。
……腰が抜けております。
「隊長さん隊長さん」
困った私は、隊長さんに呼びかけた。
こちらに目を向けた隊長さんに、おいでおいで、と私は手招きする。
隊長さんは眉をひそめながらも、立ち上がって私の目の前まで来てくれる。
「だっこ」
甘えた声で、隊長さんに向けて手を伸ばしながら言う。
隊長さんは苦笑してから私を抱き上げた。
紳士な隊長さんは、ちゃんとシーツで私をくるんでくれました。
「風呂か?」
「はい、お願いします」
行き先を確認する隊長さんに、私はうなずいた。
隊長さんは重さを感じさせずに移動して、私をお姫さま抱っこしたまま、器用に浴室に続く扉を開く。
そうして隊長さんは、お風呂場まで数歩も歩く必要のない場所に私を下ろす。
うん、あとはもう大丈夫。
「隊長さん隊長さん」
ちょいちょい、と隊長さんの袖を引く。
屈んだ隊長さんの頬に、私はちゅっとキスをする。
「運んでくれたお礼です」
へへ、と笑いながら私は言った。
甘えさせてくれたお礼、でもあるかな。
●サクラとグレイスさんにオススメのキス題。シチュ:自室、表情:「お任せ」、ポイント:「壁に押し付ける」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。
「隊長さん、キスがしたいです!」
「……そうか」
私の力のこもった主張に、隊長さんは眉間のしわを深くした。
というかたぶん、今の体勢に何か言いたいことがあるんだろう。
壁ドンです、壁ドン。
私が、隊長さんを、壁に押しつけてます。
ツッコミは不可です。壁ドンしたい気分だったんです。
ここは隊長さんの私室だし、誰かが見ているわけでもないし、別にいいよね!
「私からするので、動かないでくださいね」
隊長さんはため息をついてから、あきらめたようにうなずいた。
では、いざ!
隊長さんの唇めがけ、背伸びをする。が、背の高い隊長さんの唇へはまだ遠い。
ん? 嫌な予感がする。
つま先立ちをして限界まで身体を伸ばす。
……背が! 足りなかった!!
がっくりと肩を落とした私とは対照的に、隊長さんはぷっと噴き出した。
ひどいです隊長さん! 何がおもしろいんですか!
抗議の気持ちを込めて睨めば、隊長さんは「悪い」と全然悪いなんて思ってなさそうに言った。
むう、どうしてくれよう、このやるせなさ。
「サクラ」
隊長さんが、私の名前を呼ぶ。
それだけで私の機嫌は上昇していく。
微笑を浮かべた隊長さんの顔が、近づいてくる。私は期待をこめて目を閉じる。
ちゅ、と小さな音を立てて、唇に甘いキスが与えられた。
ふくれっ面を維持できずに、へにゃりと頬がゆるむ。
「しょうがないので、今はこれで我慢します」
腰に手を当てて、私は偉そうにそう言った。
本当は、私からしたかったけど。
それは夜のお楽しみということにしておきましょうか。
●サクラと隊長へのお題は『「泣きそうになりながら、手のひらに触れる」キーワードは「意地っぱり」』です。
夕食を食べ終わり、ソファーに並んで座って、大して中身のないサクラの話に耳をかたむける。
「で、エルミアさんにはお兄ちゃんがいるらしいんですけど、女ったらしなんだそうです」
「……ああ、それは否定できない」
ガネットの兄を脳裏に思い描きながら、相づちだけでなく言葉を返した。
よく言えば、女性に優しい気遣い上手な男だろう。
女性関係で問題を起こしたこともないし、うまくやっているようだ。
が、女好きなのは確かで、女ったらしというのも間違ってはいないと思えた。
「隊長さんも知ってるんですか?」
「隊員のことだ、当然だろう」
「そういえばそうですね」
バツの悪さをへらりと笑ってサクラはごまかす。
「兄に会ったら気をつけて、って言われちゃいましたよ」
ガネットは兄のことを信用していないらしい。
気をつけろ、は俺こそ言いたい台詞だ。
もちろんガネットの兄が何かすると思っているわけではないが。
言葉に迷っていると、サクラがいきなりぷっと噴き出した。
視線で問うと、気にしないで、と言うようにサクラは手を横に振った。
「ちょっと、思い出し笑いです」
そう言った彼女の笑顔は、すぐに歪んだ。
サクラは泣きそうになりながら、俺の手のひらに触れてくる。
指で筋をゆっくりとなぞっていく。
その行為自体には、意味などないのだろう。
何を思い出して笑ったのか。おおよそは想像がつく。
俺の、男の手に触れて。俺ではない男に思いをはせている。
それが家族だったとしても、少しだけ嫉妬してしまいそうになった。
「へへ、隊長さんの手、おっきい」
わざとらしい言葉。わざとらしい笑顔。
ちゃんと笑えていないことに、サクラは気づいているのだろうか。
そんな顔をするくせに、涙を見せることはない。
意地っぱりなのか、甘え下手なのか。
どちらにしろ俺にとってうれしくはないことだ。
今はまだ、気づかないふりをする。
きっと、そうしてほしいのだろうから。
サクラの抱えている悲しみ、寂しさ、憤り。
何も考えていなさそうな笑顔の裏に隠した、本心。
いつかすべて話してくれる日を、今はただ、待つしかなかった。
●『髪に花を飾ってあげる』『サクラとグレイス』を描きor書きましょう。
昼休憩、出入口にほど近い廊下でサクラを見つけた。
呼びかける前に向こうも俺に気づき、笑顔で駆け寄ってきた。
「隊長さん隊長さん、屈んでください!」
目の前までやってきたサクラは、ウキウキといった様子でそう言った。
いきなりなんだ、とは思ったが、拒む理由も特になかったのでおとなしく屈む。
サクラは俺の肩に手を置いて背伸びをすると、俺の耳の上に何かを挿し込んだ。
触れて確認してみると、どうやら野の花のようだった。
「外に咲いてたお花です! 隊長さん似合ってますよ!」
にっこり、とサクラは笑う。
それこそ、花のように。
その言葉と表情に、俺は脱力した。
「似合っているわけがないだろう……」
思わずため息がこぼれた。
自分のような厳つい男に、可憐な花が似合うわけがない。
いったいサクラの感性はどうなっているのか。
サクラが変わっているのは充分わかっていた気でいたが、まだまだだったのかもしれない。
「花が似合うのは、お前のほうだろう」
俺はそう言って、自分の頭から花を取り、サクラの髪に挿し込んでみせる。
白い小花は、少女然としたサクラによく似合った。
俺の頭にあるよりは、花もうれしいだろう。
「……隊長さん、それ、天然ですか?」
かすかに頬を赤らめたサクラが、そう聞いてくる。
遅れて、自分がいったい何を言ったのか、何をしたのかということに気がついた。
照れが、伝染する。
熱を逃がすように、俺は再度ため息をついた。
●サクラと隊長さんへのお題は『「怒り顔で、腕に触れる」キーワードは「朝」』です。
昼の休憩時間、バンッと音を立ててサクラは俺の私室に入ってきた。
その顔を見るかぎり、どうやら怒っているらしい。
「ひどいです隊長さん! 朝、どうして起こしてくれなかったんですか!」
ぎゅっと握りこぶしを作って、サクラは噛みついてくる。
なんだそんなことか、と俺は小さく息をつく。
それほど怒るようなことでもないだろうに。
むしろ、そんなことで怒られるとは思っていなかった。
「お前は今日は休みだろう」
多少寝坊しても誰にも文句を言われない日だ。
サクラと違い、俺は今日も仕事だ。休憩時間が終わればまた書類と格闘しなければならない。
俺の都合にわざわざ合わせてもらう必要はない。
そう思って、気持ちよさそうに眠っていたサクラを起こすことができなかった。
ただそれだけだ。これほど怒られるようなことだっただろうか。
「そうですけど! そうじゃなくってですね!」
サクラの言葉は要領を得ない。
怒りの冷めない表情のまま、サクラは俺の腕に触れてきた。いや、力強くつかんだと言ったほうが正しい。
女の力で痛みを感じるような鍛え方はしていないが、強い感情は伝わってきた。
「おはようって、いってらっしゃいって、言いたかったです」
むう、と唇を尖らせて、サクラは言う。
予想もしなかった言葉に、俺は目をしばたかせた。
おはようと、いってらっしゃい。
朝の挨拶と、見送りの挨拶。
サクラと過ごす朝には、いつも当然のように与えられていたもの。
それにどんな意味があるのか、考えたことなどなかったが。
サクラにとっても、俺にとっても。
一日の始まりに、必要なものなのかもしれなかった。
「……すまなかった」
素直に謝れば、サクラはやっと表情を和らげた。
しょうがないなぁ、というように苦笑する。
「次は、私がお休みの日でも、起こしてください」
「わかった」
「約束ですよ!」
「ああ」
念押しするサクラに、俺はしっかりとうなずいて答える。
俺も、寝顔を見ているだけでは、物足りない。
サクラのよく動く表情を見て、明るく元気な声を聞いて。
そうして始まる朝は、いつもよりも満ち足りたものになるだろう。
次からは、きちんとサクラを起こして、笑顔と共に挨拶をもらうことにしよう。
●『ベッドで「おはよう」と言っている』『サクラとグレイス』を描きor書きましょう。
朝、目が覚めると、隣には好きな人がいる。
それって、すごく贅沢なことだと思う。
しあわせだなぁ、なんて、ついつい笑みがもれてきちゃう。
私が起きたことに気づいた隊長さんは、挨拶するように額にキスをしてくれた。
やわらかなぬくもりが心地よくて、ずっとこうしていたくなった。
でも、今日も仕事だ。ちゃんと起きなきゃ。
「おはようございま……あふ」
朝の挨拶をしようとしたら、あくびが出てしまった。
まだ空は完全に明るくはなっていない。
早く起きすぎたらしい。
睡眠時間が足りていないのか、頭がちゃんと回っていないみたいだ。
「眠いなら、寝ていていい」
ぽんぽんと、隊長さんは私の頭をなでながら言った。
それは魅力的な言葉で、私は誘われるようにまぶたを下ろした。
当然、視界は閉ざされて何も見えなくなる。でも、隊長さんのことは全身で感じられる。
私を包み込んでくれている体温。整った静かな息づかい。汗を含んだ、隊長さんの匂い。背中をなでてくれる大きな手のひら。きっと優しいまなざしを向けてくれているだろう、ダークブルーの瞳。
見えないからこそ、いつも以上に隊長さんが近くにいるような気がして。
このまま寝ちゃったら、全部感じられなくなっちゃうんだなと思うと、押し寄せる睡魔と戦いたくなってくる。
「寝るの、もったいないです」
すり、と私は隊長さんの素肌の胸に額をすりつける。
もう少し、このぬくもりを感じていたい。
こうして隊長さんの一番近くにいられるのは、今は私だけの特権。
それを最大限に行使したい。
要するに、甘えたい気分だってことだ。
「……まったく、お前は」
そう、ため息混じりにこぼされる。
笑みを含んでいるように聞こえるのは、気のせいだろうか。
隊長さんも、こんななんでもないような朝の時間を、大切に思ってくれていたらいいな。
そんなことを思ったところまでは、記憶が残っている。
でももう、限界で。
隊長さんのぬくもりに包まれながら、私は再び眠りについた。
●サクラとグレイスへのお題は『「上目遣いで、両手をぎゅっと握る」キーワードは「学校」』です。
お昼の休憩時間は、たいてい隊長さんの部屋に遊びに行く。
夕ご飯は、隊長さんの仕事が長引かないかぎりは一緒に食べる。
そのまま隊長さんの部屋にお泊まりすることも多くて、そうすると朝ご飯も一緒になる。
毎日、私の生活には隊長さんがいる。
それはとってもしあわせなことだ。
「隊長さん、こんばんは!」
隊長さんの自室の扉をバンッと開いて、私は元気よく言った。
今日は遅くまで仕事をしていたので、夕ご飯は別。
でも、さっき隊員さんに聞いたら、もう部屋に戻ってるって教えてくれたから、ついつい来てしまった。
隊長さんに夜の挨拶をしないと、今日が終わったような感じがしないもんね。
「……最近、来すぎじゃないか?」
にこにこ笑顔の私とは対照的に、隊長さんは仏頂面。
せっかく来たのに、あまりうれしくなさそう。
隊長さんは、私に会いたくなかったのかな? なんてちょっと不安になっちゃいそうだ。
とはいえ、隊長さんの言うことはもっともだ。
何しろ最近ほぼ毎日、こうして隊長さんの部屋に来ているんだから。
お昼にはたいてい隊長さんは自室に帰ってきているし。一緒に夕ご飯を食べるのも、いつのまにか当たり前のことになっていた。
そうやって隊長さんとの時間が増えていくことを、私は歓迎していた。
元の世界では、恋人はみんな同じ学校の人だったから、毎日会うのなんて当然のことだった。
でも、この世界ではそうではないのかもしれない。
……私は、毎日隊長さんと会いたいんだけどな。
「ダメ、ですか?」
隊長さんの両手をぎゅっと握り、上目遣いで小首をかしげる。
元の世界で、特に学校でやろうものなら、間違いなく『かわいこぶってる』と言われるような仕草。
でも、そういうのに男の人は弱いものなのだ。
隊長さんはあきらめたように、ため息を一つつく。
「……駄目じゃない」
小さな声だったけど、たしかに、隊長さんはそう言った。
よし、言質取った!
私は思わずにんまりと笑ってしまった。
「隊長さんは、私が来るとうれしいですか?」
調子に乗った私は、答えの予想できる問いを投げかけてみる。
もっと隊長さんからの言葉が欲しくて、もっと隊長さんの本音が聞きたくて。
もっと、隊長さんは私のことが好きなんだって、実感したくて。
「……ああ」
隊長さんは言葉と共にうなずいた。
眉がひそめられているけど、頬が少し赤いから、照れているんだってわかる。
うれしすぎて、頬がゆるむ。
きっと今の私は最高にしまりのない顔をしている。
それでもいいんだ。しあわせだから。
大好きな隊長さんと少しでも一緒にいたくて、今日も私は彼の部屋の扉を叩く。