短い小話詰め合わせ

●『一緒にお昼寝している』『グレイス×サクラ』を描きor書きましょう。


 何がどうしてこうなった。
 ここは俺の部屋で、サクラが寝ているのは俺のベッド。
 部屋に遊びに来るのはいつものことだけれど、寝ている必要はないだろう。

「……のんきなものだ」

 やわらかな頬に触れると、ふにゃりと彼女は笑った。
 無防備な寝顔は、見ていると眠気を誘われる。
 開けっ放しの窓からは、あたたかな日差しとさわやかな風が入ってくる。
 たまにはこんなゆったりとした時間もいいかもしれない。
 午後の仕事まではまだ時間がある。少しくらいなら仮眠を取ることができるだろう。

 俺はサクラの隣に横になった。
 そっと抱き寄せると、寝ているはずのサクラが俺の胸にすり寄ってきた。
 実は起きているのだろうかと覗き込んでみても、まぶたはしっかりと閉じられていて、聞こえるのは健やかな寝息。
 無意識に俺を求めてくれているのなら、これほどうれしいことはないけれど。
 単にあたたかなものに反応しただけかもしれない。

 まあ、どちらでもいいか、と俺も目を閉じた。
 やわらかなぬくもりを抱きながらの仮眠は、とても心地のいいものとなった。











●『一緒にてるてる坊主を作る』『サクラと隊長さん』を描きor書きましょう。


 今にも雨が降りそうな空が、三日ほど続いていた。
 明日にはきっと降るだろう、というのがだいたいの者の見解だった。
 そんなとき。

「てるてる坊主です!」

 真っ白な端布で作った奇妙な物体を掲げて、サクラは得意気に言う。
 その物体には黒い糸で顔と思わしきものが縫いつけられている。
 サクラいわく“てるてる坊主”らしい。なるほど、たしかに坊主頭だ。

「これで明日は晴れます! ほら、隊長さんも一緒に作りましょう!」

 どういう理屈かわからないが、いつのまにか巻き込まれていた。
 慣れない作業は疲れるが、隣で笑う彼女を見て、まあいいかと思った。
 たしかに雨が降らないほうが外の仕事はやりやすい。
 もしかしたら、サクラもそれを気遣ってくれたのだろうか。
 わかりやすいようなわかりにくいような思いやりが、なんだかくすぐったかった。











●『手を繋いで照れくさそうにする』『サクラとグレイス』を描きor書きましょう。


 サクラはいつも唐突だ。

「隊長さん、お手て貸してください!」
「は?」

 そして、その唐突さに慣れてきている自分がいる。大変不本意なことに。
 どうして、だとか、何のために、だとか、色々と言いたいことはあったけれど。
 サクラの何も考えていなさそうな笑顔を見ていたら、言葉は口の中で消えていって。
 結局はこうして、俺はおとなしく彼女に手を握られることになった。

「えへへ〜、隊長さんの手、おっきいですね」

 にこにこと、何が楽しいのかサクラは満面の笑みを浮かべている。
 そんな顔をしてくれるなら、手を貸したかいもあったと思うべきだろうか。
 素直に喜んでいいのかはわからなかった。

「お前の手は小さいな」

 片手でたやすく包み隠せてしまえそうな手に、俺は苦笑した。
 手をつないでいるだけだというのに、無性に照れくさくなってくるのはなぜだろうか。
 少なくとも、相手がサクラだから、というのは確実なようだ。

 この小さな手に、俺の心臓は握られている。











●『「なんでもない」と言いながらひたすら甘えている』『サクラと隊長』を描きor書きましょう。


 たまにはこういう日もあると思うのです。

「……どうしたんだ?」

 困惑気味の隊長さんの声が上から降ってくる。
 でも私は気にしないで、抱きついたまま隊長さんの胸に頬をすり寄せる。
 すりすりすり。ついでに匂いもかいでみたり。ちょっと汗臭い。でもそこがよし!

「なんでもないですよ〜。本当に、なんでもないんです」

 さっきからそればっかり言っている気がする。
 なんでもない、っていうのは間違ってない。
 別に今日は仕事で失敗もしなかったし、落ち込むようなことも何もなかった。
 ただ、こうしたい気分だっていうだけ。
 甘えたいのです。

 隊長さんの手が私の頭をぽんぽんとなでた。
 優しい手つきに、私はもっと隊長さんのことが好きになる。
 これ以上惚れさせて、どうするつもりですか!
 隊長さんはそんなつもりなんてないって、わかっているけどね。

「好きです、隊長さん」

 だから私は、気持ちをそのまま伝えてみた。
 動揺したのか、隊長さんが身体を揺らしたのが直接感じられた。

「……この状況で、刺激するようなことを言うな」

 その声には何やら苦いものが含まれていた。

「もしかして、したくなっちゃいました? 私は全然大歓迎ですよ!」
「歯に衣を着せろ」

 隊長さんの胸から顔を上げて言うと、隊長さんにダメ出しをされた。
 えー、別にいいじゃないですか。本当のことを言っているだけなんだから。
 私がふてくされていると、隊長さんはまた私の頭を優しくなでた。

「今は、好きなだけ甘えたいんだろう?」

 ……なんでわかっちゃったんですか、隊長さん。
 なんだか、隊長さんには一生敵わないような気がします。











●サクラと隊長へのお題は『「上目遣いで、手のひらを折れんばかりに握る」キーワードは「夏」』です。


「隊長さん、夏ですね」
「そうだな」

 キリッ、とした顔でそう言ったサクラに、俺はうなずきを返す。
 真面目な表情はめずらしいなと思いながら。

「お願いがあるんです」

 サクラは上目遣いで、俺の手のひらを折れんばかりに握った。
 もちろん女の力で折れるようなやわな手ではなかったが。
 その力の強さに驚いていると、サクラは口を開いた。

「エアコンが……冷房が欲しいんです……」

 言い終えると同時に、ぐったりとサクラはテーブルに突っ伏した。
 冷房機は王都でなら普通に普及しているが、こんな森の奥の砦に全部屋設置されているわけがない。
 あるのは隊長や小隊長の私室や執務室。それから会議室などの人の集まる部屋だけだ。
 最近俺の部屋に入り浸る時間が長くなったとは思っていたが、まさか冷房目当てだったとは。
 寂しいような気もするが、気持ちがわからなくもないから複雑だ。
 砦は森の中ということもあり、王都と比べれば涼しい。
 だから多少不満があっても後回しにされている。
 俺の一存でどうこうできることでもないのだから、サクラの願いが叶えられることは、しばらくはないだろう。

 慰めるように、とりあえず頭をなでておいた。











●グレイスとサクラへのお題は『「恥ずかしそうに、指先をぎゅっと握る」キーワードは「朝」』です。


 朝、目を覚ますと、隣に彼女がいる。
 そんな日が、少しずつ当たり前になっていっている。

「おはようございます、隊長さん」
「ああ、おはよう」

 お決まりの挨拶に、俺も挨拶を返す。
 こうして二人で朝を迎えることが、まだ少しこそばゆい。
 サクラの表情がどこか照れくさそうだから、ということもあるかもしれない。

「へへへ〜、朝ですねぇ」

 どうやらサクラはまだ眠いようだ。
 舌っ足らずなしゃべり方が、いつもハキハキと話す彼女らしくなくて、かわいらしい。
 サクラが、恥ずかしそうに俺の指先をぎゅっと握る。
 そのぬくもりに、心が満たされていくのを感じる。
 寝ぼけていようとなんだろうと、サクラは変わらずサクラで、俺の心をたやすく揺り動かす。
 けれど少し、悔しくもあるので。
 閉じかけているまぶたに、俺はくちづけを落とした。

「……目、覚めました」

 ぱちぱちと目をまたたかせ、かすかに頬を赤らめながら、サクラは言った。
 そうか、と俺はそれだけ返す。

 やられてばかりでは、割に合わないからな。











●サクラとグレイスへのお題は『「恥ずかしそうに、両手を握る」キーワードは「意地っぱり」』です。


 隊長さんは少し、意地っ張りなところがあると思う。
 意地っ張りというとちょっと違うような気もするんだけど。
 言葉が少ないというか、本心を隠そうとするというか。
 だから。

「隊長さん好きです! 大好きです!」

 私から言わなきゃね!
 ほら、私が毎日大好きって言っていれば、そのうち好きって言葉に慣れて、隊長さんも言ってくれるようになるかもしれないし。
 もっと素直になってもいいんですよ、隊長さん。
 と言葉で言うよりも、私が見本を示したほうが効果があるんじゃと思ったわけです。

「……ああ」

 隊長さんはどこか恥ずかしそうに、私の両手を握った。
 そしてそのまま、指先に口づけを落とした。
 ……や、やられた〜!
 ぼぼぼって音がしそうなくらいに、顔が熱くなっていく。
 私が見本なんて見せなくても、隊長さん、やるときはやるんだよね! こうやって!
 うわぁぁ、もう、どんな顔したらいいのかわからないんですが。

 うつむいていると、隊長さんは顔を覗き込んできて、ふっと楽しげな笑みをこぼした。
 なんですか、その勝利者の余裕はっ!
 むっとしたので、私は反撃に出ることにした。
 屈んでいるから距離の近い唇に、自分の唇を押しつける。ついでにちろりと舐めてみた。
 これでどうだ!
 マウストゥマウスに敵うキスはないよね!
 顔を離して勝ち誇っていると、後頭部に手が回され、ぐい、と引き寄せられた。
 あれ、この展開、前にもあったような気が……。

 再びくっつく唇と唇。当然それだけではすまなくて、口内に侵入してくる舌。
 絡められ、吸われ、身体に熱が広がっていく。
 全部丸々食べられちゃいそうな口づけに、頭が真っ白になる。
 次に口が離れたときには、私は肩で息をしていて、隊長さんに支えてもらわないと立っていられない状態だった。

 ……すみません、大人の本気を舐めてました。

「大人をからかうからだ」

 ええそのとおりですね。よーくわかりましたとも。
 結局私は、隊長さんには敵わないようです。











●グレイスとサクラへのお題は『「軽々しく、指先を指先でつつく」キーワードは「別れ」』です。


「隊長さん、聞いてますか?」

 サクラの問いかけに俺は我に返った。
 仕事のことを考えていて、彼女の話を話半分に聞いていたことに気づいたからだ。

「……ああ、いや、すまない」

 俺は素直に謝った。
 話をちゃんと聞いていなかったことは、サクラだってわかっているだろう。
 サクラは気にしていないというように、ニッコリと笑った。

「今日はお疲れなようなので、もう部屋に戻りますね。おやすみなさい」

 その言葉は俺を気遣うものだった。
 けれど、そう言いながらも実のところ拗ねているようだ。
 ちょんちょんと、軽々しく俺の指を細い指でつついてきた。

「お前が癒してはくれないのか?」

 その手を握り込んで、俺はささやきかけた。
 ずるい、というつぶやきは、聞かなかったことにした。











●『背中にもたれかかっている』『隊長さんとサクラ』を描きor書きましょう。


 互いの熱を分け合ったあと、俺はサクラの額に口づけを落としてから、布団を出た。
 夜とはいえ夏は暑い。軽く汗を流してこようと思ったのだ。
 ベッドの端に座った俺の背中に、なぜかサクラはもたれかかってきた。
 サクラの身体は俺以上に熱かった。

「隊長さんの背中って広いですよね。これぞ男! って感じがします」

 クスクスと、笑い声が聞こえた。

「男だからな」

 俺は無難な答えを返す。
 彼女が何を言いたいのかわからなかった。
 褒められていることは、かろうじて理解できたものの。
 背中が広いのは、背が高く身体が大きいからだ。この体格は鍛えているからで、あとは親の血も関わっているだろう。
 俺よりも体格のいい者はたしかに少ないが、探せばいないわけではない。
 男らしくはあるのかもしれないけれど、長所かと言われると、怖がられることもあるので難しいところだ。

「大きくて、安心します」

 サクラの手が脇から前に回ってくる。
 すり、と背中に頬ずりをされて、俺は思わず吐息をこぼす。
 背中に感じるぬくもりはとても心地いい。
 けれど、心地よさだけを感じられるほど、俺はまだ枯れてはいない。
 特に、こんな情事の直後では。
 誘われているんだろうか、と邪推したくなるが、サクラは変に無防備なところがあるから、素なのかもしれない。
 あまり求めすぎてもサクラの身体に負担をかける。
 いまだ冷めぬ熱を発散するように、もう一度ため息をついた。

「……そうか」

 結局、俺はそう返事をすることしかできなかった。









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