噛み痕を残されちゃいました

 何度目かになった隊長さんの部屋へのお泊り。
 そりゃあまあ恋人同士ですし? 大人ですし? 特に障害とかもありませんし?
 やることはがっつりやるわけでして。
 ぺろりと平らげられちゃった私は、夢を見ることもないくらいぐっすり眠って。
 明けて朝方、いつもみたいにおはようございますをして。
 お風呂を借りてさっぱりして。
 ふと、服を着ながら鏡を見たら。

 肩に、噛み痕。

「たたたたっ、たいちょーさぁぁぁん!!」

 私は悲鳴を上げながらバンッと扉を開いた。
 すでにきっちりと服を着ていた隊長さんがこちらに目を向け、その目が見開かれ、すぐにそらされた。

「……服を着ろ」

 あ、そうだった、まだちゃんと服着てなかった。ご指摘ごもっとも。
 どうせすぐにお仕事の時間になるからって、隊長さんの部屋にお泊りするときはいつも使用人の制服を持ってくる。
 イメージとしては、膝下丈のクラシカルなメイド服かな。濃いめの緑色です。
 今はメイド服の下に着るシャツを大ざっぱにはおっただけの状態。つまり、下着とかお腹とか足とか、色々丸見え。噛み痕のある、片側の肩も。
 これはいかん、と私は「すみませんでした」と謝って、一回扉を閉めた。
 そうだね、まずは服を着てから。

 でも、でも、でも……!
 頭の中でさっき目にしたものがぐるぐると回る。
 もう一度、鏡を見ようという気は起きない。
 だって、あんな刺激が強いもの、どうしろっていうのさ!
 沸騰した頭のせいでボタンを止める手が震える。
 いつもよりも時間をかけて制服を着て、今度こそ、と勢いよく扉を開いた。

「噛みましたね!? 噛みましたね隊長さん!」

 大股で隊長さんに詰め寄って、私は仰ぎ睨む。
 バッチリ支度が完了している隊長さんは、涼しい顔でうなずいた。

「そうみたいだな」
「み、みたいだな、って……」

 たぶん、さっき私があられもない格好で出てきたときに確認したんだろう。
 というか無意識なんですか、無意識だったんですかこの人ぉぉぉ!!
 うわああ肉食だよこの人! 見た目は肉食っぽいのに普段は若干へたれの草食のくせして、夜だけがっつり肉食だよ〜!!

「痛かったか?」

 私の動揺っぷりもなんのその、隊長さんは気遣わしげに聞いてきた。
 え、心配するところそこですか……?
 隊長さんずれてる、めっちゃずれてるよ!!

「お、覚えてないです……」

 私はうつむいて小さな声で答える。うう、きっと顔が赤くなってる。
 覚えていたらそもそもこんなに動揺していない。
 情事の最中のことなんて、ぶわーってなってズキューンって来て、そのあとはもうでろんでろんのぐでんぐでんだ。
 まだ理性が残ってるときならまだしも、最後のほうだったりしたら、もう無理。記憶なんてあやふやだ。
 最中って、その、痛いも気持ちいいに変換されちゃうし、ね。
 特に肩なんて、キスマークつけられたときと区別なんてつかないよ!

「……そうか」

 伝染したのか、隊長さんも照れたような顔でつぶやく。
 男の人の恥じらいって、普通キモいと思うんだけど、隊長さんだとなんだかかわいい。

「嫌だったのなら、もうしない」

 何を思ったのか、隊長さんはきっぱりとそう告げた。
 私は顔を上げて隊長さんを見上げる。
 そこにあったのはいつもの仏頂面。
 困ったような、私を心配しているような、そんな顔。
 私が過剰反応しちゃったから、気にさせちゃったのかな?

「そ、そういうわけじゃ、ないんですけど」

 なんて表現したらいいのか、よくわからないんだけど。
 いつも、隊長さんとそういうことをするとき、私は思うわけなのですよ。
 まるで食べられているみたいだ、って。
 お腹をすかせた猛獣に、好物を差し出しちゃったような。
 まあつまりぶっちゃけるとそれだけ激しいってことなんですよ!

 だから今回、噛み痕を残されたことで。
 文字どおり食べられちゃったんだなぁって思ったら。
 なんだか、いつもの私らしくなくテンパっちゃったわけなんです。

「おいしかったですか?」

 複雑な気持ちを持て余したまま、私は隊長さんに尋ねてみる。
 隊長さんは肉食だ。アスパラベーコンのさらにその中に、きっとステーキ肉が隠れてる。
 そういうのって結局何系って言えばいいの?
 でも、そんなことは今は問題ではなくて。

「ああ」

 ちょっと照れているのか、苦笑しつつもはっきりそう答える隊長さんが、少し憎らしい。
 おいしく食べられちゃった私は、文句を言う口なんて持っていなくて。
 ならいいか、とか納得しちゃいそうになってて。


 つくづく隊長さんは卑怯だなぁと思いました。



作品目次へ