どうして今まで気づけなかったのか。
刀剣たちの装備を作るために資源を見たら、玉鋼だけ異様に減っていた。
遠征に行ってもらうにしても、すぐに補充できる量ではない。
仕方がない、と審神者は万屋の戸を叩いた。
「ごめんね、荷物全部持ってもらっちゃって」
「いえ、謝ることなど何も。そのための伴ですから」
買い出しについてきてくれた一期一振は、そう言ってにこりと微笑む。
つられて審神者も笑みをこぼすと、ほわわんとした空気に包まれた。
「っと、主」
くい、と唐突に肩を抱き寄せられ、鼓動が大きく跳ねた。
すぐ横を通り過ぎる影に、危うく人にぶつかるところだったのだと気づく。
「ご、ごめん。ありがとう一期」
先ほどと同じように謝ると、先ほどと同じように一期一振も笑った。
気にすることはない、とその笑みは告げている。
彼にとっては当然のことなのだろう。
どんな些細なことでも、主である審神者を守ることは。
「人通りも増えてまいりましたし、お手をお貸しください」
へ? と審神者は目を丸くした。
お手をお貸しください。
貸してどうすると言うのだろう。
いや、違う。そうじゃない。わかっている。
つまりは。彼の言わんとすることは――。
「無理無理無理」
考えるより先に審神者の口が動いた。
その言葉に一期一振は悲しそうな顔をした。
「そう、ですか……。出すぎたことを申しました」
あ、これは誤解しているな、とすぐに気づいた。
審神者はもちろん、手をつなぐこと自体が嫌だったわけではなく、一期一振を傷つけたかったわけでもない。
「そうじゃなくて! 私、汗っかきだから……今日あったかいし……!」
「そのようなこと……私はこのとおり手袋をしていますし、気になさらずとも」
審神者の説明を、一期一振はいまいち理解していないらしい。
わかってない。彼は女心というものをまるでわかってない。
「余計ダメ!! 手袋にシミが残ったら死ねる……!」
自分で言っておいて、羞恥で全身が燃えるようだった。
白い手袋なんて、濡れたら一発でわかってしまうじゃないか。ダメだダメだ。
よほど必死の形相をしていたのか、一期一振はようやく納得してくれたようで、審神者に差し出していた手を引っ込めた。
「では、」
まだあきらめていなかったのだろうか。
おそるおそる見上げると、彼はやわらかな笑みを浮かべた。どこか恥ずかしげに。
「裾を、つかんでいてください。私を安心させるためと思って」
うぐ、と審神者は言葉をつまらせた。
そんな言い方は、ずるい。
たしかにこの人通りでは、はぐれる危険性がないとは言いきれない。
それなら、まあ、うん。
意味のない言葉を並べながら、言われたとおり裾をつかんだ。
それでよし、と言うように一期一振は笑みを深める。
もう彼の顔を見ていられなくて、審神者は前を向いて歩き出す。
直接触れているわけではないのに、なぜか、熱を感じた。