「長谷部、来なさい。手入れをしましょう」
主の声が優しく響く。
けれどそこには、反論を許さない厳しさをも含まれていた。
「……この程度の傷」
「長谷部」
「……はい」
二度目の呼びかけに、長谷部はおとなしく従った。
もとより、主に抗うことができようはずがないのだ。
長谷部は刀を主に預け、布団に横になった。
この身に受けた傷は、本体である刀を手入れすることによって回復する。
人間の身体というものは面倒なことに、傷を治したところで疲労感もあり、休息が必要となる。
休んでいる暇があるなら一体でも敵を狩りたい長谷部にしてみれば、なんとも厄介な作りだった。
「まったく、長谷部はすぐに無理をしようとするんだから。休むときはしっかり休む。大切なことよ。わかった?」
寝る体制に入った長谷部に、畳みかけるように主は苦言を述べる。
目を閉じていてもわかる。
彼女が今、どんな顔をしているのか。
怒りを表すように眉をひそめて、唇を尖らせて。
けれどその瞳には、心配の色を宿して。
思わず、くすりと笑みをこぼしてしまった。
「主の仰るとおりです」
「もう、そう言ってまた無理するくせに」
主は長谷部のことをよくおわかりだ。
きっと長谷部はまた同じことを繰り返すだろう。
限界まで己を追いつめ、傷を負い、そして。
そんなことを繰り返していれば、いつか折れる日が来るかもしれない。
それでも。
「……お願いだから、自分を大切にして」
優しい優しい声がする。
ゆるやかに、遅効性の毒のように、長谷部の身体へと巡っていく。
我が主はお優しい。
長谷部のことも、他の刀にそうするように、気にかけてくれている。
けれど、長谷部が何を思って無理をするのか。
そのことには、気づいてはくれないらしい。
無理をするな、と主はおっしゃる。
自分を大切にして、と主はおっしゃる。
ですが、ですが主。
無理をせずにどうやって主のお役に立てとおっしゃるのですか。
自分を大切にしながらどうやって敵と戦えとおっしゃるのですか。
俺には太刀や大太刀ほどの力はないのです。
役に立たぬ刀など、要らないでしょう。
俺は主に必要とされたいのです。
俺は主に――。