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21.大はっ見!

 あのね、あのね。
 ぼく、大はっ見をしたんだよ!

 お星さまが毎日かがやいてて、たくさんあるのはね。
 お月さまがさみしがらないようになんだ!

 お月さまが毎日すがたを変えるのはね。
 お星さまを楽しませるためなんだ!

 ね、すごいでしょ?

 お月さまとお星さまは、たすけあって生きてるんだ!

 夜のお空がきらきらしてるのは、『たすけあいせいしん』のおかげなんだよ!
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22.君色の空

 いつのまにか、好きになってた。

 自覚したのはつい最近。
 思ってたより、僕は鈍感だったらしい。
 気づいたときにはもう手遅れで、かなりの重症。

 いつのまにか君の姿ばかり追ってる僕の目。
 いつのまにか君の声ばかり拾ってる僕の耳。

 目に映るもの、すべてに君を重ねて。
 いつのまにか君の面影ばかり探してる、僕の心。

 ふと見上げた空は晴れやかで。
 君の笑顔を思い出す。

 しょうがないなぁ、というように。

 君色の空が、優しく僕を笑った。
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23.鼓動が跳ねる

 初めは、冗談だと思った。

 だって、まさかあなたが私なんかを、なんて。
 考えたこともなかったから。

 でも……。

「俺は美由のことが好きだよ」

 その声が、息ができなくなるくらいまっすぐで。
 その顔が、目をそらせなくなるくらい真剣で。

 本気なんだって、伝わってきた。

 頬が熱くなってくるのは、あなたの言葉に照れたから。
 泣きたくなってくるのは、あなたの気持ちが嬉しいから。

 鼓動が跳ねる音が、耳に大きく響いた。
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24.特別になりたくて

 君の“特別”になりたかったんだ。

 何にも誰にも無関心な、君の。
 ほんの少しでも気を引きたかった。

 好意じゃなくていい。
 嫌われたって、憎まれたっていいと思っていた。
 それで君の瞳に映れるのなら。

 そう、思っていたはずだったのに。

「君が周りに興味がないから、皆も君に興味を持たないんだろうね」

 君の傷ついた瞳を見て……これ以上ないくらい、後悔した。
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25.メガネ

 知らないふりだって、できたんだけど。
 アンタがじ〜っと、穴があくんじゃないかってくらい見てくるから。
 つい、気になっちゃって。

「何よ?」
 私はケンカ腰で訊いた。

「お前……メガネ取るとかわいいんだな」

 アンタは真顔でそんなこと言って。

「メガネ取っても、でしょ!?」
 強がったけど、真っ赤になった頬は、隠せなかった。

 根っからのスポーツバカで、冗談言うような性格じゃないって知ってる。
 単細胞で無神経で、深い意味なんて全然ないってことも、わかってる。

 だから、私が赤くなった理由だって当然気づくわけなくって……。

 この、鈍感!!
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26.ふわふわスフレ

「スッフレ〜、スッフレ〜、ふっわふっわスッフレ〜♪」

 音階を持った声が、楽しげに跳ねる。
 バッグをぶんぶん振り回しているところを見ると、ケーキは僕が持って正解だったらしい。

「嬉しそうだね」

 チーズスフレなんて、ケーキの中では安物なのに。
 値段でおいしさが決まるわけではないけれど。
 てっきり、あの店で一番人気のチョコレートケーキや、季節のタルトを選ぶと思っていた。
 値段を気にされたのかな、と勘ぐってしまう、複雑な男心だったりする。

「良ちゃんと一緒に食べられるのが嬉しいの!」

 僕の一番大好きな、まぶしい笑顔。

 ……それはちょっと、反則。
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27.消極的な意思

 消極的な意思って、何の役に立つんだろう?
 あれは嫌、これも嫌、後はどうでもいい。積極性がないから“意志”にもならない。

 ただのわがまま、でしかない。

 ……って、ずっと思ってたんだけど。

「気に、しないでね」
 あわてて君は涙をぬぐう。
 いつも笑顔のクラスメイト。悩みなんてなさそうで、うらやましかった。
 一瞬だけ見えた透明なしずくが、僕の心に波紋を呼ぶ。

「気になるよ」
 消極的な意思、初めて役に立ったかも。

 君が泣いてるのは、嫌だ。
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28.あけおめメール

『明けましておめでとう。
 今年もよろしく』

 三日の昼過ぎに届いた、藤沢からのメールの全文。
 年が明けてすぐに、なけなしの勇気をふりしぼって送ったメールに対する返信だった。
 顔文字も絵文字もない短文が、いつも仏頂面のあいつらしくて笑えてくる。

 アドレスはずいぶん前にクラスメイトのよしみで交換しただけ。
 連絡しあうような仲じゃなかったから、実はこれがお互い初めてのメール。

 遅いとか、短いとか、そっけないとか。
 色々と思うところもあるんだけど。

 今年も『よろしく』していいんだって、都合よく解釈して。

 頬をゆるませながら、新年初メール保護をした。
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29.ゆらゆら

 揺れるのは嫌い。

 地震も、乗り物も、眩暈も。
 気持ちが悪くなるから。

 自分の立ち位置が、分からなくなるから。

「君が好きだ」

 ああ、そんなにまっすぐな瞳で私を見ないで。
 私の気持ちを、揺らさないで。

「……ごめんなさい」
 私はうつむいて、なんとかそれだけ返す。
 彼の傷ついた、けれどいまだに熱を失わない瞳を、見ないように。

 ゆらゆら、揺られる。

 揺れるのは、嫌いなの。
 自分を嫌いには、なりたくないの。
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30.苦いはちみつ

「たっくんはね、すんごくすんごく優しいんだよ」

 美幸はほんわかと語る。
 はちみつみたいに甘ったるい声音で。

「幸のこと一番に考えてくれてるんだって」

 頬が赤く染まってるのは、照れているからなのか、単に寒さでなのか。
 ……鈍い美幸のことだから、きっと後者。
 そうでも思ってないと、無表情を維持できない。

「よかったな」

 無難な返事をするのに、どれだけの理性と気力が必要なのか。
 俺の言葉に笑顔でうなずく美幸は気づいてはくれない。
 もちろん、自分から何も行動してない俺に文句を言う資格がないのは、わかってるんだけど。

 宣戦布告する勇気もない俺は、ため息を飲み込んだ。
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31.覗き込む空

「明日は青空が綺麗ね」

 歌うように君は予言を紡ぐ。

 《神の欠片》の言葉は絶対だ。
 予想でも予測でもなく、必ず言葉通りの未来になる。

「あなたの瞳の色と同じ。気持ち良さそう」

 君は優しく微笑む。
 僕はなんと答えればいいかわからなかった。

 《神の欠片》は青空の下になんて出られない。
 陽の暖かさも、春の風も、感じることはできない。

――世界の均衡を崩さないため。

 そんな詭弁で、彼女はこの北の果ての塔に封ぜられている。
 ふざけるな、と思うのに。
 何の力もない僕には、君を救うことなんてできなくて。

 だから、せめて。

 僕の瞳に慰められると言うのなら、僕はずっと、君の傍にいるから。
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32.返事ではなく

「返事はいい。分かってるから」

 何か言おうとした君をさえぎって、僕がそう付け足したのは。
 もちろん、君を思いやる気持ちもあったんだけど。あったと思いたいんだけど。
 本当は、意気地がなかったから。

 君の口から、ごめんなさい、を聞きたくなかった。
 ただ、それだけで。

 けれど、信じてほしい。

「好きになってくれて、ありがとう」

 返事ではなく、純粋な謝礼。
 意味は違っても、一つの好意の形。

 その言葉に救われた自分がいたのも、確かなんだ。
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33.「寒いね」と

「寒いね」

 君は声を白くしながら、つぶやく。
 すぐに外気にとけていく声は、僕の鼓膜を優しく揺らした。

「うん、寒い」

 僕は会話を続けたくて、うなずく。
 春も夏も秋も冬も、ほぼ毎日会って話しているのに、君との時間は特別。
 君も同じように思ってくれていたら、嬉しいんだけど。

「でも、あったかいや」

 ふふっ、と君は笑った。
 つないでいる手から、ぬくもりが伝わる。

 心がほかほかとあたたまる感覚が、くすぐったかった。
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34.きらきらの雨

「あーめあーめ降ーれ降ーれ♪」

 君は楽しそうに傘を振り回す。
 人通りが極端に少ない、いつもの帰り道。通行人を気にする必要はない。

「濡れるよ」

 無駄だと知りつつ、僕は一応注意した。
 はしゃぎすぎて、雨ですべりやすくなってる道路で転んだら危ない。
 もしそうなっても寸前で助けられる自信はあるけれど。

「濡れたいからいいの!」

 案の定、君はむしろ積極的に雨に飛び込んでいく。
 買ったばかりと言っていたカーディガンが水を含んで、重そうだ。
 風邪を引かないか心配になるけれど、言っても聞かないのはわかりきっている。
 念のため、帰ったらすぐに風呂に入れるよう、おばさんにメールで伝えてはあった。
 マイペースな君のために僕ができるのは、その程度。

「雨、きらきらしててきれいだね!」

 傘や上着にはじかれた雨粒が、輝いているように見えるらしい。
 そろそろ雨がやむのか、雲が減って薄日が出てきているから余計なのかもしれない。
 君のほうがきらきらして見える、なんて言ったら、きっと深く考えないで君は喜ぶんだろう。
 自分はそんなキャラじゃないから、雨とたわむれる君をただ見守るだけだ。

「本当に雨が好きだね」
「うん、大好き!」

 雲間から顔を覗かせた太陽のような笑顔に、僕も何度でも雨が好きになる。
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35.怖い話をしよう

 真っ暗は怖いから、とオレンジ色の薄明かりに照らされた部屋。
 感じるのは布団のあたたかさと、お互いの体温。

「絶対、先に寝ないでね。手も離しちゃダメだよ。話しかけたら答えてね」

 二人で寝るには少しせまいベッドの中、君は念押ししてくる。
 必死な声とすがるような表情に、僕は自由なほうの手で君の頭をなでた。

「うん、分かってる」

 これまで何度となくくり返されているやり取り。
 子どものころから、それこそ幼稚園に入る前から、大のホラー嫌いの君。
 でも、好奇心が強くて、加えて妙に意地っぱりだから、怖い怖いと騒ぎつつ最後まで聞いて。
 結果、一人じゃ寝られなくなって、二人きりのお泊り会。

『夏と言えば学校の怪談でしょ!』

 そう言い出したのは君の友だちで、それに乗ったのは僕の友だち。
 涙目の君に気づいたときに、止めればよかったんだろう。
 結局友だちの暴走に付き合ってしまったのは、下心があったからかもしれない。

 男としてまるで意識されてないことを、毎度毎度思い知るけど。
 頼ってもらえるのは、純粋に嬉しいから。

 僕はやわらかな手を少し強く握った。
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36.年違いの雪だるまの対話

「いらっしゃい、今年の雪」

「まさかお会いできるとは……望外の喜びです、去年の雪」

「ははは、一年も冷凍庫で眠っていた甲斐があったというものだよ。
 ……君も、私と同じように長い時を過ごすのだね」

「どうやらそのようです」

「幼子を、恨んではならないよ」

「ええ、心得ております」

「私たちは、元は流動する存在。
 確かな形を得て、人の子の夢を背負うことのできる時は、幸いにも近しくあった」

「あなたのその御心を、私も継げればと思います。
 せめてものよすがに、マフラーを貸してくださいますか?」

「ああ、お安いご用さ。
 ではそろそろ、老いぼれは土に帰るとするよ」

「……お休みなさい」
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37.白い、眩しい

 白い。

 屋上の重い扉を開けた裕樹に、目を焼くような白が襲い掛かる。傾き始めた日の光。
 ついで、むわっと肌に貼りつく生温い外気。

 こんなところで本当に奈緒は待っているんだろうか。
 いつも不思議に思う。校内には冷房完備の部屋もあるのに。
 日陰すらないこんな場所を選ぶ理由が分からない。
 それでも、やっぱり視線の先では、奈緒がフェンスにもたれかかっていて。
 こちらに気づいて手を振ってくる。
 なぜだろう。訳もなく腹が立つ。
 裕樹は奈緒に歩み寄り、冷たい缶ジュースを放り投げた。
 目標地点より缶は左下に逸れ、かがんだ奈緒の手の内に納まる。

「ノーコン!」

 怒ったような声、けれど嬉しそうな笑顔。
 一致しない言葉と表情は、ひねくれ者の奈緒らしい。
 裕樹は野球部ではなくサッカー部所属なのだから、用法すら間違っている。
 蹴ったほうがよかったか?
 皮肉で返そうとして、さすがに格好悪いのでやめた。

「おごってやるんだから文句言うなよ」

 それでも仏頂面はどうにもできず、恩着せがましく言ってみる。
 ピンク色の缶には『いちごみるく』の表記。甘党な彼女が特に好きなジュース。
 わざわざ購買で冷やされていたものを買ってきたのだから、褒めてほしいくらいだ。
 もっとも、そんな素直な奈緒は想像もできなかったが。

 ヒヤリ、頬に刺さるような冷気。
 冷たすぎて、一瞬熱いようにも感じられた。
 驚いて奈緒に顔を向けると、邪気のない子どものような笑み。

 白い。

 彼女の笑顔か、太陽の光か、どちらともか。
 裕樹は眩しさに目を細めた。

 溶けてしまいそうなほどの暑い日差しの下、奈緒は遮るもののない屋上にいる。
 裕樹の部活が終わるまで待っている。
 校庭から見上げれば、手を振ってくる人の影。
 待つなら図書室のほうがちょうどいいだろうに。
 そう思いつつも、強く注意しないのは、期待しているから。
 裕樹の姿を見るためだったらいい、と。
 絶対に、言えないけれど。



 白い、眩しい屋上に。
 今日も彼を待っている、白い少女の影を探した。
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38.透明な

 君の心は無色透明。
 色も形もない、つかめないモノ。

 子どもが透明なビー玉に瞳を輝かせるように。
 大人が花の香りをはらむ風に心癒されるように。
 誰もが生きるために水を、酸素を、必要とするように。

 自分一人のものにならないとわかっていても、惹かれずにはいられない。

「あ〜、しんど……」

 目を閉じてもまぶたの裏に浮かぶのは君。
 呼吸するのと同じように、当たり前に君を想ってる。
 君は俺のことなんて、名前すら覚えているか怪しいのに。
 胸に質量を持って存在する想いは重くて、いつか息ができなくなりそうだ。

 この想いもいつか透明になってくれないだろうか。
 そうすれば誰にも見られず、気遣われず、君を好きじゃないふりができるのに。

 けどもう、きっと手遅れ。
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39.ちゃんと恋だもん

 彼のことが大好きです。
 告白どころか、ちゃんと話すこともできないけど。
 見ていられるだけで幸せなんです。

「それってホントに恋なの?」
「恋だもん!」

 友だちの言葉に、ギクッとした心には気づかないふり。
 これはちゃんとした恋だもん。

 だって、彼のことを考えるとすごくドキドキする。
 毎日学校で見かけるだけでうれしくなる。
 それだけで、しあわせだから。

――告白しちゃうのは、もったいない。

 そんなふうに思ってたなんて、自分でも気づいてなかったのに。

 どうしてあなたはわかったんだろう。
 私の恋が、ちゃんとした恋じゃないことを。
 どうしてあなたは泣きそうな顔をしてるんだろう。
 悲しそうな、痛みをこらえているような顔で、私を見据える。

「俺のこと、ちゃんと見ろよ!」

 ドキドキ、じゃなくて、ズキズキ。
 罪悪感で、心臓が悲鳴を上げる。

 どうしよう私。
 すっごく失礼なこと、してた。
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40.猫に懐かれてるから

 告白の場所として、よくあるのは体育館裏と裏庭。
 どうしてみんな裏を好むんだろうか。
 単純に、人の目につかないからなんだろうけど。
 面白みにかけるよなぁ、なんて思っちゃうのは、こういう状況に慣れてしまっているせいだろうか。

「好きです」

 誤解しようのない、どストレートな愛の告白。
 目の前にいるのは、耳まで真っ赤にした、見覚えのない女の子。
 リボンのラインは赤。後輩のようだ。
 どちらかと言えばかわいい子だとは思う。一般論として。
 だからって、試しに、なんて考えられないくらいには、自分は保守的らしい。

「どうして僕のことが好きなの?」
 告白されるたび、僕は理由を訊く。
 今まで望む答えが得られたことはないけれど。
 それでも、もしかしたらと思う気持ちは止められない。
 自分がどんな答えを望んでいるのか、それすらはっきりしないというのに。

「猫に、懐かれてるから……」

 は? 猫?

 僕は耳を疑った。
 たしかに僕は猫が好きで、猫にも懐かれやすい。
 でも、それがどうして理由になるんだ?
 予想外すぎて、どんな反応をしたらいいのかわからなかった。
 考えているうちに、だんだんと愉快な気持ちになってくる。
 望む答えなんかじゃなかったけれど、こんなに興味を引かれた理由は初めてだ。

 さて、どう返そうか。

 まずは自己紹介から、なんてどうかな。
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