お手つきの数だけ愛を重ねよう

 恋人の部屋で、レポート作成。
 となれば当然ながら、途中から気もそぞろになるというもので。
 彼女の肩を抱き寄せて、頬に口づけ。
 そのまま顎を取ってキスしようとしたら、白い手のひらに阻まれた。

「お手つき一回」

 むっとした顔で、彼女は言う。
 真面目な彼女はレポート作成を口実にする気はなかったんだろう。
 彼女の性格を知っていながらも残念に思ってしまうのは、俺はいつでも彼女に触れたいから。
 せっかくの休みなんだし。せっかく二人きりなんだし。
 そう理由をつけて、恋人らしいなんやかんやをしたくなる。
 それはきっと、彼女からしてみたら不純な考えなんだろうけど。

「今日一日、過剰な接触禁止」

 ぴしゃり、と言い放つ彼女に、少しだけ不快感を覚える。
 それは、不安と紙一重のもやもや。
 真面目なのは付き合う前からわかっていたことだ。そんなところも好きだと思っている。
 だからって、限度というものもあるんじゃないだろうか。
 たとえば、いつも好きだと言うのは俺のほうだけ、だとか。
 付き合って半年も経つのに、まだ一度もそういう関係になっていない、だとか。
 積み重なった不満は、不安を生むものなのだ。

「……なあ、俺たち恋人同士だよな?」

 俺の問いかけに、彼女は一瞬だけ困ったような、恥じらうような表情を浮かべる。
 それからすぐに顔を引きしめ、キッと俺を睨んだ。

「恋人同士でも、モラルは守るべきだと思います」

 子どものできる確率がゼロではないセックスというものは、在学中の身でしていいことでは、云々。
 真面目くさった彼女のお説教は右から左へと抜けていく。
 熱に浮かされた頭では、自分にとって都合のいいように彼女の言葉を解釈してしまう。
 つまりは、最後までしなければいいんだ、という結論を弾き出す。
 ひょいと彼女を抱き上げ、さっきまで背もたれにしていたベッドに下ろし、そのまま押し倒す。
 彼女の顔の両側に手をついて見下ろせば、真っ赤に熟れたおいしそうな頬。

「ま、真久!」

 お手つき、と言うことすらできないあわてた様子の彼女に、俺はいくつもキスを落とす。
 ちゅ、ちゅ、という音が立つたびに、彼女は全身を赤く染めていく。
 人間はこんなにも赤くなるものなのか、と笑ってしまいたくなるほどに。

「お手つきならあとで何回分でも食らうから」

 そう言ってぎゅっと抱きしめれば、もう彼女は抵抗しようとはしなかった。
 俺が彼女に触れるのは、間違いでもなんでもない。
 好きだから、触れたくなる。抱きしめたくなるしキスもしたくなるし、それ以上のことだってしたくなる。
 そんなの、恋人同士なら当然のことなんだ。
 本当に“お手つき”なのは彼女のほう。それは、俺の希望でもあるけれど。

 “お手つき”は、照れ屋な彼女の限界告知。
 そうわかっているけれど。わかっているからこそ。


 審判員、俺ももう限界です。



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